本記事筆者は、大東文化大学文学部書道学科を2019年4月に入学、2023年3月に卒業しました。
そこで今回は、大東文化大学文学部書道学科への入学を希望している方、また書道学科がどのようなところなのか知りたい方に向けて、
- 大東文化大学の書道学科とはどんな学科なのか
- どんなことが学べるのか
- 学科の雰囲気
- 学科の良い点、大変だった点
- 入試を突破するコツ
を紹介します。
2000年に新設された「大東文化大学 文学部 書道学科」
大東文化大学の書道学科は2000年に新設された比較的新しい学科です。
書道学科が新設されるまでは、書道をしたい人たちはおもに日本文学科・中国文学科に進学し、書道部に入部して部活動として書道に取り組んでいました。
書道学科が新設されたことによって、大学の授業内容は書道に特化し、より書道活動に打ち込むことができるようになりました。
大東文化大学 文学部 書道学科で学ぶ内容
1,2年生の主な授業内容
1,2年生の2年間では、書道の基礎的な技術・知識を身に着けることを目指します。
実技の授業
1,2年生では、半紙サイズで楷書・行書・草書・隷書・篆書の5書体すべてと仮名を習う授業があります。この2年間で、書道学科生として全ての書体を書けるようにします。
入学前の時点では、すべての書体が書けなくても心配いりません。特に隷書と篆書については書いたことのない学生が多いため、基本的な筆遣いや線の書き方から学びます。
2年生からは漢字かな交じりの書・篆刻の授業もありました。
普段の授業は半紙サイズですが、先生によっては期末の課題に半切サイズで書いてみようという授業もありました。
また、高校時代についてしまった字のクセも、古典を尊重した視点から修正してもらえます。
中国・日本の書道の歴史を学ぶ授業
実技の授業のほかに、中国・日本の書道の歴史を学べる授業があります。
たとえば、蘭亭序という有名な古典がありますが、書いた人の名前はなんでしょうか?
-答え:王羲之
このような基礎的な知識を身に着けずに卒業してしまうと、「4年間なにしてきたんだよ(笑)」と笑われてしまいます。書道学科生として恥ずかしくないように最低限の知識は身に着けて卒業できるようにしましょう。
そのほかには中国語や漢文などの授業もある
書道に関する授業のほかに、中国語や漢文などの授業もあります。
漢文は中高生時代にも習ったかと思います。基礎的なレ点からスタートするので漢文が苦手だった人でも大丈夫だと思います。高校生でしっかり勉強した人はまったく心配いりません。
中国語は1年生と2年生の全期間で必修科目となっています。中国語は発音がとても難しいです。テストが難しく、単位を落とす人がたくさん出るので注意が必要です。4年生の卒業時にはほとんど忘れています(笑)。
3,4年生の主な授業内容
3,4年生の2年間では、ゼミに分かれてそれぞれ専門的なことを学びます。
ゼミは書作ゼミと書学ゼミの2つに入ることになります。
書作演習(書作ゼミ)
3年生から書作ゼミがスタートします。
書作ゼミでは、希望したゼミに入り、作品制作に特化した授業が行われます。この授業で使う紙のサイズは、漢字作品の場合、主に2×8尺サイズになります。
卒業制作に向けた作品制作もこの授業で行います。
書作ゼミの種類は、
行草書に特化したもの
篆隷書に特化したもの
仮名に特化したもの
篆刻に特化したもの
などがあります。
自分の専門にしたい書体に精通している先生のゼミを選ぶ人もいれば、先生の人柄で選ぶ人などもいます。
書学演習(書学ゼミ)
3年生から書作ゼミとはべつに、書学ゼミもスタートします。
書学ゼミでは、希望したゼミに入り、書道に関する学術的な授業が行われます。卒業論文の執筆もこの授業で行います。
書学ゼミの種類は、
中国の書道の歴史に特化したもの
日本の書道の歴史に特化したもの
書道作品の美しいとはなにかなどを追求する書道美学に特化したもの
などがあります。
書学ゼミの選び方も人それぞれですが、仮名の作品を書く人の場合は日本の書道の歴史を専門に、篆書の作品を書く人の場合は中国の書道の歴史を専門にした方がよいかと思います。
ゼミ以外の授業
書作ゼミ以外の授業でも、作品制作の授業はあります。漢字作品制作、仮名作品制作、漢字かな交じりの書、篆刻作品制作を学べる授業があります。
書学ゼミ以外の授業でも、中国書道史、日本書道史、書道美学を学べる授業があります。
また、中国の書論が学べる授業、日本の明治時代以降の近現代に活躍した書道家について学べる授業(近現代書道史)もあります。
大東文化大学 文学部 書道学科の雰囲気
男女比率
書道学科(1学年約60人)の男女比率は、8:2の比率で女性の方がおおいです。どの学年も同じくらいの比率のようです。
教室30人のうち、6人ほどが男性で、あとはすべて女性ということになります。
数少ない男性陣、どんな人たちなんだろう?
→書道学科の男性陣、高校時代は女性が多い書道部だった人がほとんどです。そのため女性社会を生き抜いてきただけのコミュニケーション能力は備わっているなという印象です。普段は協調性を尊重しつつ、時にはちゃんと解決に導いてくれます。バリバリの運動部タイプはあまりいないです。
先生方の雰囲気
書道学科の先生の男女比率は現在100%男性となっています。仮名の分野で女性の方がいらっしゃる年もありました。
男の先生なので最初は怖いイメージがあるかもしれません。ちょっとしたことで怒られないかな、と身構えるかも。
しかし、先生方はみんな仏さまかのようにとてもやさしい人ばかりでした。
そのやさしさに甘えず、時おり身を引き締めなおして授業を受けることが重要になってきます。
また、先生方は、「読売書法会」に所属している先生がほとんどです。「読売書法会」の最大の特徴は、 古典に根差した「伝統の書」を徹底的に追究する点です。
大東文化大学 文学部 書道学科で取得できる資格
教員免許状が取得できる
大東文化大学の書道学科では、以下の3つの教員免許が取得できます。
- 高等学校教諭一種免許状(書道)
- 高等学校教諭一種免許状(国語)
- 中学校教諭一種免許状(国語)
ただし、これらの教員免許は卒業すれば自動的に取得できるというものではなく、申請をして教育心理学や教育実習など、書道とは関係のない授業も受講しなければならないので気をつけましょう。
私の代では、1年生のころは学生約60人のうち9割ほどが教員免許取得に必要な授業を受けていましたが、4年生のころには7割ほどに減っていました。
4年生では6月ごろに2週間または3週間の教育実習があるのですが、就職活動とも時期が被るためなかなかハードルが高めです。
また、書道学科の先生とはべつの先生の授業もあるのですが、そういった先生方の授業は課題の提出が遅れたり、出席日数が足りなかったりすると融通やお情けはなかなか利きません。そういった理由で脱落していった人もいましたね。
教員免許は比較的取得しやすい免許です。看護師資格は看護師国家試験、弁護士資格は司法試験に合格しなければなりませんが、教員免許は教職課程の授業を受けるだけで取得できます。(※資格の取得は簡単だけど、教員採用試験に合格するのは難しい)
書道学科への入学を希望している方は、教員にならないとしても、教員免許を生かせる仕事もあるため、心に余裕があれば「一応とっておくかあ」的なノリでも取得しておくことををすすめします。
そのほかの取得できる資格
教員免許のほかにも、司書・司書教諭、博物館学芸員、社会教育士の資格も取得できます。
これらの資格もそれぞれ必要な授業を受講する必要があります。
教員免許にプラスして、司書・司書教諭、博物館学芸員の資格取得を目指している人は数人ですがいました。
しかし受講しなければいけない授業がたくさんあって大変そうでした。本命である書道学科の授業を受けたくても、資格取得のために必要な授業と被っていて書道学科の授業が受けられなくなることもあります。
就職は大事だから、就職先に困らないために取れる資格はとっておきたい!と言う人はがんばってみてもいいかもしれません。
大東文化大学 文学部 書道学科に進学してよかったこと
実技の授業が楽しい
書道学科の授業は半分くらいが実技の授業です。
実技の授業は、先生の一方的な講義ではないので退屈しません。高校の家庭科や化学の実験みたいな授業がたくさんあると思ってください。
しかも、実技の授業は期末テストがないのでテスト期間がとても楽です!
ほかの学科はテストや課題尽くしのなか、書道学科はテストが少ないのでそれほど苦しんでいる様子はありませんでした。ただ、中国語のテストだけはほんとうに難しいので注意が必要です。
先生の存在が身近にある
書道学科は1学年約60人、全学年約240人に対して先生は10人もいます。(ST比24)
つまり、先生1人あたりの学生の割合(ST比)が低いということです。
このST比が低い学科は少人数教育がしやすい環境にあるということです。
参考までに、
日本文学科は1学年約150人、全学年約600人に対して先生は14人(ST比42.85…)
中国文学科は1学年約70人、全学年約280人に対して先生は9人(ST比31.11…)
他学部の経営学科は1学年約365人、全学年約1460人に対して先生は30人(ST比48.66…)
大東文化大学 文学部 書道学科に進学して大変だったこと
大東文化大学 文学部 書道学科で大変だったことも紹介します。
お金がたくさんかかる
大東文化大学は私立大学のため学費がとても高いです。
書道学科の新入生は、入学金の210,000円を含めて1,440,900円もかかるようです。
大東文化大学の学費の確認はこちらからどうぞ。
→https://www.daito.ac.jp/campuslife/support_expenses/file/file_tuition01.pdf
1回(90分)の授業で支払ってる金額をざっくり計算すると、
1,200,000円(1年間の学費)×4年間=4,800,000円(4年間の学費)
4,800,000円(4年間の学費)÷124単位(卒業に必要な単位数)=38,709円(1単位もらうための値段)
1科目でだいたい2単位もらえるので、
38,709円×2=77,418円(1科目の値段)
1科目につき授業は15回行われるので、
77,418円÷15回(授業の回数)=5,161円(1回の授業で支払っている金額)
たった1回90分の授業だけで5,000円も払っているんです!
そこからさらに書道用具代、校外への研修や作品の表具代(3,000円~10,000円)などもかかります。
一人暮らしの方は家賃、光熱費、食費などもかかってきます。
1,2年生と3,4年生でキャンパスが違うため移動が大変
1,2年生と3,4年生で授業が行われるキャンパスが違います。キャンパス同士の距離がけっこう離れているため、一人暮らしの方は2年生から3年生に上がるタイミングで引っ越しをする人が多いです。
1,2年生の東松山キャンパスと3,4年生の板橋キャンパスがどれくらい離れているのかと言うと、
東松山キャンパスの最寄り駅の高坂駅から板橋キャンパスの最寄り駅の東武練馬駅まで電車で約1時間もかかるほどです。
部活動などでもう片方のキャンパスに用事があるときは、学校が終わってから1時間かけて通う必要があります。
自己紹介で「大東文化大学で書道について学んでます!」がはずかしい時も
これは人によるかもしれませんが、自己紹介の場面で自分が大東文化大学で書道を専門に学んでいることを話すのが恥ずかしい場面があるかもしれません。
日本の書道の世界だと大東文化大学はけっこう有名ですよね。
しかし、書道の世界から一歩でると大東文化大学の書道学科という経歴はまったく通用しません。
就職活動の集団面接において、
Aさん「青山学院大学○○学科のAと申します。」
Bさん「埼玉大学○○学科のBと申します。」
わたし「大東文化大学文学部書道学科のわたしと申します。4年間かけてがんばったことは、書道です。」
→面接官・周りの反応「え、いま書道学科っていった?書道部じゃなくて??大学でなにしてんの???(笑)4年間かけて書道極めるって、ちょっと変な人来ちゃった????」
ちょっと大げさかもしれませんが、就職活動で大学で学んだことが活かせないということです。
気になる異性との会話において、少しでも自分をよく見せたいですよね。
相手「大学ではどんなこと勉強されてるんですか?」
わたし「え~なんていうんだろ、芸術系ですかねぇ~」
相手「え!芸術ってすごいですね!」
「小説を読むのが好きで文学について学んでいます」「看護について学んでいます」「教育について学んでいます」と言えるのがうらやましく思えます。
大東文化大学 文学部 書道学科の入試を突破するコツ
「書道の実力」が重要
大学のホームページにある入試結果データを見てみると、受賞歴がわかるものや実技試験でその人の実力が分かる入試方式で合格者を多く出していることが分かります。倍率も筆記試験のみの入試方式と比べて低いです。
推薦型の入試では必ず書道作品を提出します。そのため、毎年推薦型での合格者数を多めにだしています。
入試結果データを見てみると、
2022年度において、推薦型で定員が全部で27人とされていますが、実際の合格者数は37人も出しています。
2021年度において、推薦型で定員が全部で25人とされていますが、実際の合格者数は42人も出しています。
2020年度において、推薦型で定員が全部で25人とされていますが、実際の合格者数は35人も出しています。
また、一般選抜のなかでも3教科の入試方式もおすすめです。
3教科のうちの1つが実技試験となっているため、合格者を多めにだしています。
2022年度において、一般選抜(3教科)独自型と英語民間型合わせて定員が8人のところ、実際の合格者は30人も出しています。
しかも、表の合格最低点を見てみると、独自型は179/300で、英語民間型は200/300とそれほどハードルは高くないのではないでしょうか。
一方、書道の実力が分からない筆記のみの入試方式は厳しめに区切られています。
一般選抜(共通テスト利用)は7割以上、一般選抜(全学部統一)は8割以上とらなければ合格させてもらえないようです。共通テスト7割以上はかなりこわいです。
他学科と比べてみても倍率も合格最低点も高くなっているので、この入試方式からはあまり合格を出さないようにしているようです。
推薦入試の面接対策
推薦入試で面接がありますが、どんな形式でどんなことが聞かれるのかを紹介します。ぜひ、本来の自分をアピールできるようにがんばってください。
面接以外にも試験がある場合は、面接はその試験のあとにあります。
実技試験がある場合は、面接で実技試験のことについても触れられます。
受験する人はその日だけで20人以上いるので1人1人じっくりと面接しているととても時間がかかってしまいます。そのため、面接は1つの教室で5か所ほどで行われます。面接官は書道学科の先生2人です。
面接時間は10分15分程度かと思います。
入退室の作法(ドアノックなど)はいりません。
面接会場となってる教室の前に案内をする係の人がいて、
「あちらの机のまえに座ってください」
と案内されます。
面接が終わればすべての試験がおわり、面接を終えた人から各自解散です。
書道分野についての質問
聞かれる質問内容を紹介します。すべての質問を網羅しているものではないのでご注意ください。
- 自己紹介、自己PR、志望動機を30秒/1分以内でお願いします。
- (事前作品提出の場合)あらかじめ机の上に作品が置かれていて、作品の説明。○○を臨書した。○○を意識した。など
- (事前作品提出の場合)もう少しこうすればよかったと思う点はありますか。
- (事前作品提出の場合)この作品を選んだ理由はなんですか。
- (実技試験がある場合、問題用紙を渡されて)どれを書いたかと、気を付けたところ、反省点があれば教えてください。
- 自分の専門分野(書体、古典)について教えてください。
- 好きな古典はなんですか。その理由はなんですか。
- 書道の良さは何だと思いますか。
- 好きな書道家はいますか。その理由はなんですか。
大学生活についての質問
- 大東文化大学以外の大学の選択肢もありますか。またそれでもどうして大東文化大学なのですか。
- 大学に入ってやりたいことはありますか。(おそらく書道関係の答え)
- 大学に入るまでにやっておきたいことはありますか。(おそらく書道関係の答え)
- 大学に入れなかったらどうしますか。(おそらく書道関係の答え)
- この学科を卒業したあとは、どうしたいかありますか。将来何をしたいか。
高校生活、その他についての質問
- 高校生活での1番の思い出はなんですか。
- 書道をしていて嬉しかったことはありますか。
- 尊敬する人はいますか。
- 書道以外に趣味はありますか。
- 最後になにか言い足りなかったことはありませんか。(無いなら「無いです」でいい)
書道の上達には道具も大切
ここまで入試対策を紹介してきましたが、書道を上達させるためには道具も重要です。
ちゃんとした筆で練習していないと、いつまでも上達せず、間違った方向に進んでしまうこともあります。
作品を書く際、
「お手本のようになかなか上手に書けない…」
「筆が思うように動いてくれない…」
という方は、普段使っている筆と違う筆を試してみるといいかもしれません。
ちなみに、おすすめの書道筆は『【おすすめ】書道筆「小春」を紹介/使いやすさ・美しさを求めた書道筆【悠栄堂「小春」】』を参考にどうぞ。↓
【最後に】大東文化大学 文学部 書道学科は純粋に書道を学びたい人、純粋に疑問を解決したい人におすすめします
書道を専門的に学べる大学はいくつかありますが、大東文化大学 文学部 書道学科は、古典、伝統、歴史をリスペクトした書道が学べる学科としてはとてもおすすめです。
ただし、書道の大会で賞を取れるようになるための学校ではありません。賞が欲しいのなら、その大会で地位の高い先生の教室に入ればいいのです。というか賞をもらっても何にもなりません。
ただ歳をとった偉そうな、先生と呼ばれているおじさんが「こういう書道作品がいいのだ」と言っていることに疑問を持ったことはありませんか?「なんでこれがいいのですか?」と聞くと、「○○先生がこうしろって言っていたから」などと根拠のない思想を布教してこられた経験はありませんか?
もしかしたら、あなたの書道に関する疑問が大東文化大学に来れば解決できるかもしれません。疑問をぶつけられて嫌な顔をする先生はいません!(先生へのリスペクトはわすれずに)
そしてその先に、結果として書道の大会で賞を獲得できるようになるべきなのではないでしょうか。
また、残念ながら大学で書道を学んでも今後の人生に直接役に立つ場面は少ないかと思います。そりゃあ、経済学部で経済の勉強をした方が社会人として賢く生きていけるのかもしれません。
でも、そんな理屈で生きる人生なんてつまらない!自分が学びたいこと、疑問に思うことを解決したいんだ!という人に書道学科をお勧めします。