血書経(けっしょきょう)とは
血書経とは、写経を行う際に、自分の血で文字を書く写経方法のことをいいます。
血書経は修行の1種として行われた
どうして写経の文字に、血が使われたのでしょうか。
それは、一種の身体を犠牲にして仏道を求める修行として血書経が行われたからです。
血をもって経文を書くという例は、経典の中にみえます。
まず、『大智度論』(巻第16)に、
復次如愛法梵志、十二歳遍閣浮提、求知聖法而不能得、時世無仏仏法亦尽、有一婆羅門言、我有聖法一偈若実愛法当以与汝、答言、実愛法、婆羅門言、若実愛法当以汝皮為紙以身骨為筆以血書之、当以与汝、即如其言破骨剝皮以血写偈
『大智度論』(巻第16)
「汝が皮を紙とし、汝が骨を筆として、血をもって書くべし(原文は漢文)」とあります。
また、『梵網経』(菩薩心地戒品第10巻下)にも、
常応受持読誦大乗経律、剥皮為紙、刺血為墨、以髄為水、折骨為筆書写仏戒、木皮穀紙絹素、竹帛亦応悉書持、常以七宝無価香花、一切雑宝、為箱囊盛経律巻、
『梵網経』(菩薩心地戒品第10巻下)
「大乗経律を受持し、読誦す。皮を剝ぎて紙となし、血を刺して墨となし、髄をもって水となし、骨を析て筆となし、仏戒を書写すべし(原文は漢文)」といっています。
これらの経典から、身体を犠牲にして仏道を求めることが功徳とされていたことがうかがえます。
血書経が書写された記録
記録を見渡したところ、血書経の遺例はとても少ないようです。
そのなかの1つ、内大臣・藤原頼長が、この血書経に挑んでいます。彼の日記『台記』(1145年(久安元年)10月25日条)によれば、
廿五日、丙寅、今旦より血経薬師経を書くなり。修理大夫敦任、(件の人、去年血経を書く。仍って、此の事を役す)、の左手指を割かしめ、其の血を取る。
『台記』1145年(久安元年)10月25日条、原文は漢文
といっています。
なんと頼長は、自分自身の肉体は傷つけないで、他人の血で代用しているのです。血液の提供者は修理大夫・藤原敦任でした。藤原敦任は、代々漢学者の家の出で、頼長の学問相手でした。
血書経を完成させた頼長は、延暦寺にのぼって経供養を行いました。導師は叡山の僧侶・実陽法橋でした。
施入された「薬師経」12巻のなかに敦任から採血して書写した「薬師経」と「寿命経」各1巻が加えられました。ところが、このアイデアは秘密に伏せられてしまいました。
頼長自身の弁明によると、「去年、指の血をもって書くところの経なり。但し、血経の由は導師に仰せず。衆聞を恐るるによってなり」(『台記』久安2年正月20日条・原文は漢文)といいます。
どうして頼長は衆聞を恐れなければならなかったのでしょうか。むしろ、当時の公卿社会において誇れる経供養なはずです。
おそらく、頼長は、他人の血をつかったことがばれることを恐れたのでしょう。
また、保元の乱で悲劇的な幕切れとなった崇徳上皇(1119~1169)も、みずから配所讃岐の白峰御所において、血書経の五部大乗経を書写しています(『吉記』1183年〈寿永2年〉7月16日条・『保元物語』)。
血で文字を書くのはとても難しかった
何巻もの経巻を実際に血で書くということは簡単なことではありませんでした。
血は凝固が早いので、ケガをして出血をしたとしても、すぐに止血してしまします。さらに、暗褐色に変色してしまいます。
このような特性をもつ血で、写経をすることが可能だったのでしょうか。また、可能だとしてもかなり大量の血液を必要とします。
血書経が書写されたという記録は残っていますが、現存はしておらず、実際にはどんなものだったのか知ることはできません。
ちなみに、現在、血書経といわれる遺品は、経塚から出土したものが多いです。しかし、すべて朱墨で書いたものとされており、血で書いたと思われるものはありません。
血書経の遺品
さいごに、血書経の遺品を紹介します。
平安時代にはいって写経が実用から離れて、信仰的になるにつれて、血書経の遺品は多くなります。
しかもそれは平安時代末期の経塚出土遺物にみることができます。
そのなかでも目立つものとしては、以下の5つが挙げられます。
- 福岡県朝倉郡安川村(現甘木市)大字楢原虚空蔵寺境内出土 経巻残片 1125年(天治2)
- 東京都南多摩郡由木村(現八王子市)白山神社境内出土 経巻残片 1154年(仁平4)
- 大阪府豊能郡東郷村(現能勢町)大字出野若宮八幡宮経塚出土 経巻残片 1181年(養和元)
- 福井県敦賀郡東郷村(現敦賀市)大字谷口出土 経巻残片 平安時代
- 京都府与謝郡桑飼村(現加悦町)字温江大虫神社境内出土 経巻残片 平安時代
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参考文献:小松茂美著作集9・18