草書は日常生活でほとんど使いませんし、楷書と形がかけ離れているため使いづらいですよね。
書道をやっている人は草書で書かれた作品を制作するときや鑑賞するときに何の字を書いているのか、その字のどの部分を書いているのかを理解しておくのは重要なことです。
今回は、草書について理解を深めることを目標に、特徴、歴史、そして書き方、おぼえ方のコツを紹介します。
草書の特徴
草書は篆書・隷書・楷書・行書・草書の中で一番早く滑らかに書くことができ、筆の弾力を十二分に発揮できる書体です。その為、芸術的表現に最適な書体です。
草書の特徴をいくつかまとめてみます。
点画の連続と省略
篆書・隷書・楷書は一点一画をとめて、きちんと書かれています。一点一画が全部必要で、省略も連続もありません。行書も点画の連続、省略が行われますが、草書はさらに極限といっていいくらい画数を少なくし、速く書くために連続して書かれています。
そのために画から画に移るとき、筆を離さずそのまま書きます。実際にはない線も書くわけです。
いろいろなくずし方でいろいろな表情
同じ文字でもくずし方に許容があり、いろいろな姿をしています。縦長の字形や、横長の字形もあり、形にも幅があります。
時代や筆者の個性によって、いろいろな姿勢をとります。草書は固定した形はなく、その時の筆の動きによって創造されます。
文字の簡略化が極限にまで達した文字であるため、少しの点画の動きや方向の違いで、別の文字になったり、別の字なのに形が同じなものもあります。そこで、正確に草書を覚え、瞬時に違いを見抜く眼や正しく書ける腕を鍛える必要があります。
楷書の構造美に対して草書は流動美
楷書は端正で整斉な姿で、構築的な美です。篆書・隷書は左右対称で安定感、重量感があります。
草書の美しさは、筆の速度、筆勢、リズム感などによって生まれる流動美です。
芸術的な書体
草書を実用的な場面で使おうとすると、草書の省略法を知らない一般の人は書家の書いた達筆な草書の手紙は読めません。あて名も草書で書かれていると郵便屋さんが読めなくて困ってしまうでしょう。
一般には草書は実用的な書体ではありません。
草書の字形は動的で幅が広く自由なため、筆者の表現したい感情を出しやすいです。つまり、芸術的な作品作りによく使われる書体です。
線の多彩な変化
草書では線の省略がすすむと、点画の多くは曲線に近い表情になります。様々な曲線の表情、美しさが草書の1つの魅力と言えます。
草書の運筆は旋回運動が中心です。特に右旋回が多く、筆圧、速度、抑揚、リズムなどによっていろいろな表情を表現できます。
草書の歴史
草書体は漢字の書体としては一番簡略化されているため、書体の変遷は楷書の早書きが行書、行書をさらに簡略したものが草書と思われがちです。
しかし、事実は逆で、「楷行草」の中では草書が一番早く生まれ、次に行書、そして楷書は行書とほぼ同時期に出始めて、行書より少し後に完成しました。
草書は隷書の早書きから生まれた
草書は隷書の早書きから生まれました。紀元前1世紀ごろの草書をみると、隷書の波磔(右払い)とリズムを残したものがあることが分かります。

隷書体は、字形が平たく、右上がりがない点が特徴です。
長い横画には右払いがあり、その右払いのことを「波磔」と呼びます。

後漢・三国・西晋と時代が進むにつれて草書体は簡略化と整理が進み洗練された草書へと進化しました。西城から出土した晋代の木簡・残紙にその様子がうかがえます。
当時の草書は、書体としての構造や用筆はまだ素朴でした。しかし、楷書で確立した三過折(トン・スー・トン)の原理は行書・草書にも影響を与えました。
こうした草書体の簡略化と整理が進む中で、書法としての美を実現したのが王義之(人物名)です。それから後の時代は、王羲之の書が典型として尊ばれることになり、王羲之の書は書道史上重要な位置を持っています。王羲之の草書作品の代表作に「十七帖」などがあります。
草書の書き方、おぼえ方
草書は早く書くことができますが、省略法を知らないと誤字になったり、読めないなどの欠点があります。
省略法を覚えるうえで知っておいた方が上達が早くなるポイントを紹介します。
点画の特徴
草書の点画は、楷書に比べると長い画は短く、短い画はさらに短くして点のようにするなど、簡略化することが多いです。また雑なふうに、線を細くすることで早く書けるようにしています。
つまり楷書がトン・スー・トン、と書くところを、草書はトン・スーであったり、スー、トンであったり、場合によってはトンだけで書くこともあります。
さらに次の書くに早く移るため、跳ねをつけ、勢いよく移れるようにしています。
また草書では、文字の最初の画は太く重く書いてアクセントとすることが多いです。
連続のしかた
草書は行書と同じように、早く書くために点画を連続させます。こうすることで楷書のように次の画に移るとき、一度筆を紙から離す必要がないので早く書くことができます。
しかし、なんでも連続すると、かえって点画が混み入り、読みにくくなってしまいます。
それを回避する方法として、離れた点画の連続は本来はないはずの線なのですから、細い線で書くことです。これを太く書くと別の字になったり、読みにくくなるので注意します。
筆順の変化
草書の筆順は、楷書と違うパターンが多くあります。
その理由の一つとして、草書は楷書より前の隷書が使われていた時代に完成したものであるため、隷書の筆順に従うことがあるからです。
また、早書きに便利なように、草書では接近した点画は連続して書くということも起こり、そのため正式な書体である隷書とも筆順が変わることにもなりました。
楷書ができる前の時代に定着したもののため、楷書の筆順と違うものがあるのは当然ということになります。
覚えやすい部首
中にはほとんど省略がなく、簡略や連続の変化だけで成り立つ形があります。これらは比較的覚えやすいため、まずそのような部首を先に覚える方が理解しやすいでしょう。
難しい部首
漢字は単独の部首だけの字は少なく、多くは「偏と旁」「冠と脚」「内と外」など、いくつかの部首を組み合わせています。草書には、その字がどんな組み合わせによるかで共通した省略の方があります。
ただ各部首の省略形を覚えるのではなく、こういった組み合わせを意識して覚えることで上達の仕方に差をつけることができるでしょう。
また、同じ部首なのに字が違うと簡略や省略の仕方も違うことがあります。こういったものは、結局「偏と旁」などのその字を成り立たせている他の部首との関係や、使用頻度によって自然と定着したものなので受け入れるしかありません。
明らかに形がおかしいもの
草書の中には、楷書の形とはあまりにもかけ離れていることから、どうしてこんな形になるのかわからず、覚えにくい難しい字があります。
これもまた、草書が隷書の早書きとして生まれた名残があるための場合がおおいです。楷書と隷書では形が全く違うものもおおくあります。
こういった字はとにかく1字1字丸ごと覚えるしかないでしょう。
最後に
ここまで草書の特徴、歴史、おぼえ方について紹介してきました。
さきほど紹介した王羲之などの草書の名人の筆跡を見てみると、草書の形によく成熟していて、まぎらわしい形はきちんと区別して書かれているのがわかります。
草書を習い始めたばかりのころは細かい違いが分からなくて、同じように見えてしまうことも多いと思います。もとの楷書の文字を見ながらどうしてこんな形になったのか注意深く見比べてみてみると、だんだんその違いが分かってくると思います。