今回は、かな書道をしている方たちに向けて最低限知っておきたい平安古筆の知識を紹介していきます。
かな書道の勉強は、平安時代のかな書道の古典『古筆』を学ぶことが常識となっています。
現代では古筆についてほとんど触れることがないため遠い存在になってしまっています。かな書道をするみなさんには古筆が身近なものに感じられるようになることを目標に書いていきます。
古筆とは
古筆とは
古筆とは「古人の筆跡」という意味で、おおよそ平安時代の末までに書写された筆跡のことを指します。現存しているものは「古今和歌集」や「和漢朗詠集」であり、そのほとんどが和歌集となっています。つまり、ごく一部の例外を除いて、物語や随筆などの散文作品を書き写したものは現存していないということになります。
したがって、「源氏物語」や「枕草子」などが書写された古筆は、残念ながらほとんど伝存していないといえるでしょう。
古筆の装丁
古筆の装丁は、巻子本(巻物)と冊子本(帖)の2種類があります。
巻子本
巻子本とは巻物のことです。横にとても長い紙をくるくると巻いたものです。
原則として料紙の表側だけを書いていき、裏側は金箔や銀箔で装飾されています。
冊子本
冊子本とは現代で言うと本の形です。
冊子本の多くが粘葉装や綴葉装という装丁で本の形になっています。
粘葉装は一枚の紙を二つに折って、折り目の外の部分同士を糊でくっつけていきます。
綴葉装は紙を何枚も重ねて二つに折って、何組かをまとめて糸で綴じるという方法です。
粘葉装と綴葉装 の見分け方としては糸が使われているか、使われていないかでわかります。
博物館で冊子本の古筆が展示されていた場合、粘葉装や綴葉装 のどちらで装丁されているかにも注目してみてくださいね。
古筆切れについて
古筆切れとは、もともと巻子本(巻物)や冊子本(帖)だった古筆がつぎつぎと切り分けられていき、短冊ほのどサイズになったもののことをいいます。
どうして切り分けられてしまったのかというと、原因は2つあります。
1つ目は、室町時代に発生した茶の湯です。
茶の湯が行われている和室を想像してみてください。掛け軸がかかっていますよね。その掛け軸に古筆が使われるようになります。古筆を掛け軸にするためには巻子本、冊子本を1枚の紙にする必要がありました。
巻子本の古筆の場合は、区切れのいい箇所までをひとまとまりし、切り取る。冊子本の場合は、1ページ分または見開き2ページ分にして掛け軸に仕立てられました。
2つ目は、江戸時代の古筆収集の流行です。
江戸時代になると古筆収集のブームがおこり、ますます古筆の分割が進みます。古筆は数に限りがあるため、さらに細かく切り分けられていったのです。
古筆紹介
ここからは代表的な古筆を紹介していきます。かな書道家なら一度は学んでおきたい古筆たちです。
高野切
「高野切」といえば、数ある古筆の中でも、最高位に位置する古筆のひとつとして有名です。
筆者は紀貫之と伝えられていますが、明らかにそれぞれ別の人物の書風が3種類あることから「高野切第一種」「高野切第二種」「高野切第三種」と言いならわされています。
高野切第一種
高野切第一種の特徴として、紙面にたっぷりと墨をのせたところと、完全に絞りきったところの差が大きいので紙面に奥行きが見られます。ほかの2種に比べて連綿が短いという点もあげられます。
高野切第二種
高野切第二種の特徴として、各文字が著しく傾いています。これは行の中心線を通すための連綿技法だと考えられています。筆使いとしては、側筆の線を多用し、そのまま逆筆へと結びつけています。
高野切第三種
高野切第三種の特徴として、 字形がすべて端正で、複雑な線は使用されていないため、お手本にしやすいです。 実際、第三種は「かなのお手本」と言われています。
三色紙
三色紙とは「継色紙」「寸松庵色紙」「升色紙」の3つを合わせた総称です。
散らし書きの練習、作品制作をする場合は三色紙を参考にするのがおすすめです。
継色紙
継色紙は抑揚の効いた運筆と、三角形を二つ横に並べたような散らし書きが展開されています。
寸松庵色紙
寸松庵色紙は線質が明快で、緩急、強弱を利かせた連綿が見られます。一枚の紙の中での行の構成に変化を持たせた、様々な種類の散らし書きが展開されています。
升色紙
升色紙は紙面に思い切って大きな空間を開けたり、書かれた行に上書きする技法(重ね書き)を用いたりし、大胆な構成になっています。
その他の古筆
- 関戸本古今集系
- 細身の古筆(針切、香紙切など)
- 行成の子孫の古筆
- 西行系