日本の法帖

高野切第一種・第二種・第三種について時代や特徴を解説

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高野切は、私たちが学ぶかなの古典の中でもっとも有名なもの、そして最も正統的だと考えられています。

今回は、高野切とは一体どのようなものなのかを解説していきます。

高野切について

高野切第三種 巻十九断簡
高野切第三種 巻十九断簡 ※クリック/タップで拡大

「高野切」と呼ばれている古筆こひつは、正しくは「高野切古今集」と言われます。

高野切は「古今和歌集」の現存する最古の写本です。

古今和歌集とは、平安時代(10世紀のはじめ)醍醐だいご天皇が、紀貫之きのつらゆきなどに命じて当時の古今の歌の中で優れたものを選択分類編集させてできたものです。全部で二十巻あります。

」とは断片の意味で、完本の場合は「切」といわないため高野切は古今集二十巻の完備して遺ってはいるものではありません。

高野切という名前の由来

高野切という名前は、豊臣秀吉が愛蔵していた、古今和歌集巻九(高野切第一種)の巻首、阿倍仲麻呂あべのなかまろの歌「天の原ふりさけ見れば春日なる・・・」が高野山に伝存でんぞんされていたことからこの名前が付けられました。

もともとこの断簡は豊臣秀吉とよとみひでよしの愛蔵品でした。秀吉は意に背いた高野山や根来寺に対し攻略を決意しましたが、高野山の文珠院住持であった木食応其もくじきおうご斡旋あっせんによる和議で、戦乱を回避することができました。

その結果、秀吉応其の功績を称賛して、巻九の断簡を与え、さらに高野山再興の援助も得ました。

つまり、巻九の断簡は秀吉から応其に与えられ、高野山に伝存したのです。

この断簡が「高野切」と呼ばれ伝えられるにつれて、ほかの一群も同じように「高野切」と呼ばれるようになりました。

三種類の高野切

高野切は、第一種、第二種、第三種と三種類の筆跡から成り立っています。

これらの筆者はすべて紀貫之きのつらゆきと伝えられていますが、三種類それぞれ書風が違うことから、今日では紀貫之が書いたという確証はないとされています。

筆者が紀貫之と伝えられている理由は、古今集の写本として最も古い、優れた筆跡であり、古今集を編集したのが能書として有名だった紀貫之であったからです。

正しくは3人が分担して書いた、寄合書よりあいがとされており、その3人で書かれた3種類を、順に高野切第一種・第二種・第三種と名付けられているのです。

3人の書風は、どれも紀貫之よりやや時代の下った書風になっています。

紀貫之の時代のかなは、1字1字が独立していて、つづけ書きが発達していなかったのに、高野切の筆者は3人ともつづけ書きを書きこなしており、すでにかなの完成期の姿を見せています。

高野切の3人の筆者については、まだ確定した説はありません。

高野切の特徴

高野切は関戸本、元永本、寸松庵色紙、継色紙などのような帖、冊子と異なり、書表現はとぼしいです。

しかし、三種とも書風が、静かさ、厳正さ、高貴さをもつことにおいて共通しており、写本的様式の典型でもあります。

ことば書き、歌の作者、歌の3つを必ず備えており、ことば書きのない場合は、「だいしらず」と書き、作者を書かない時は「よみ人しらず」と書いています。

そして、ことば書きの位置も、歌の行頭より2文字下から書きはじめ、行頭をそろえています。

作者名は、その時数によって位置はちがっても、行尾は歌の行尾と並行しています。

歌は行の位置をそろえ、行間の広さもそろえ、少しの隙もない厳正な様式で書かれています。

高野切の料紙

高野切の料紙(加工した紙)は、他に類を見ない上質の紙で、麻紙ましといいます。

麻紙の特徴として、紙質がなめらかで、雁皮紙のような硬さや照りがなく、少し墨を吸う感じがします。

そのおかげで、字の線がふっくらとやわらかく見えます。

また、なんの色彩もない麻紙の一面に、細やかな雲母砂子きらすなごが、星くずのようにまき散らされています。

高野切第一種

高野切第一種
高野切第一種
高野切第一種巻一 五島美術館蔵
高野切第一種 出光美術館蔵
高野切第一種 出光美術館蔵
高野切第一種 遠山記念館蔵

高野切第一種は現在、巻一と巻九が断簡として、第二十が完本として残されています。

また古今集の寄合書の原則から、第一種の筆者は他に巻十・十一・十二を分担して書写したものとされています。

また同じ筆者の手によるものと言われる古典に、伝藤原行成筆「大字和漢朗詠集切」、伝宗尊親王筆「十巻本歌合」「本院左大臣家歌合」などがあります。

その優雅にして格調高い筆致から、第一種の筆者は寄合書の第一位に当たるものであろうと推測されます。

高野切第二種

高野切第二種は巻二と三が断簡として、巻五と八が完本として残されています。

また寄合書の原則からいって、現存はしませんが巻四・六・七が第二種に当たります。

第二種の筆者については、現在能書家として名高いみなもとの兼行かねゆき(?~1077)とされています。

これは『真名本平等院旧記』により平等院鳳凰堂の色紙型の筆者は兼行とされ、その書風および『九条家本延喜式』の紙背文書の兼行自筆書状が、第二種の筆跡とおなじだからです。

二種系統の古筆も数多くあり、伝紀貫之「桂宮本万葉集」、伝源順筆「栂尾切」、伝藤原行成筆「雲紙本和漢朗詠集」「関戸本和漢朗詠集」などが代表的です。

筆致は力強く、個性的な表現がなされています。

高野切第三種

高野切第三種 巻十九断簡
高野切第三種 巻十九断簡
高野切第三種 巻十九断簡
高野切第三種 巻十九断簡

第三種と目されているのは、巻十三・十四・十五・十六・十七・十八・十九ですが、そのうち現存するのは、巻十八と十九が断簡としてわずかに残されているだけです。

第三種系統の作品は、伝藤原行成筆「粘葉本和漢朗詠集」、同「近衛本和漢朗詠集切」、同「伊子切」、同「法輪寺切」、同「蓬来切」、元暦校本万葉集巻一・二があります。

第三種の書風は、一種、二種に比べて清新明朗で若々しさが感じられます。

形態は、整正、清純高雅であり、連綿は流麗で渋滞することなく三種の中でもっとも自然な軽妙さを見せています。

学書の上においても三種の中でまず第一に学ぶべき古典とされています。

最後に:現代かな書道にむけて

かな書道において、古筆の研究はとても重要です。

古典の正しい書法、いわゆる古典に立脚した創作ができてこそ、古筆を現代に生かすというべきです。

しかし、展覧会過多の現代では、その出品に忙しく、作品制作の根底であるべき古典研究の時間がなく、いきなり作品に取り組むのが現実です。

これは将来の為に危機感をもつべきことであって、何としても時間を作って古典の研究に打ち込む工夫をしなければいけません。

書展出品のためのかなから、真正なかなで書道を発展させていきたいものです。

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