第1通
現代語文
お手紙をいただきました。拝見いたしますと、ご近況が明らかとなり、雲や霧が去ったよに心が晴れ晴れといたしました。また、お手紙とともに「摩訶止観」の経典を下さいまして、ありがたくいただき、供養をいたします。ご厚情に身のおきどころもありません。厚くお礼申し上げます。
もうだいぶ寒くなりましたがお体はいかがでございますか。わたくしは、相変わらず元気に過ごしております。
わたくしも、おことばに従って、お山に登ってお目にかかりたく思いますが、用事に追われて、参上することもできません。いま、あなたと室生山の堅慧と3人がどこか一緒に集まり、仏法の重要な教義や因縁について語り合い、共同の力でおなじ信条にもとづく宗旨の寺を建立して、仏の宏大無辺の恩徳に報いたいと思っています。どうかそのためにも面倒くさがらずに、わたくしのいるこの寺にあなたのほうからお越しください。これこそ、わたくしの希望するところです。
9月11日
東嶺の金蘭(最澄へ向けたあて名のこと)
法前(脇付にあたるもの。僧侶に対してのみ使う用)
謹空(手紙の一番終わりに書いて敬意を表す用語)
第2通
現代語訳
思いがけずもお手紙をいただき心が晴れ晴れとしました。わざわざ届けてくださったお香2包と、それに左衛士の督の藤原冬嗣さまの手紙、いずれも拝領いたしました。ところがただ今仏事にとり込んでいまして、お手紙を拝見したり使いの方とも話をする時間がありません。この仏事がすんだ後に、すぐに拝見いたし、かならずくわしくご返事申し上げます。ご使者に託して、とり急ぎこの手紙をさし上げました。
9月13日
第3通
現代語訳
早速ながら、お手紙を下さり、まったく安心いたしました。お香などは3日にこちらに参りました。3日からはじめて9日までで仏事が済みます。10日に明け方発足してあなたさまの所へお伺いいたしましょう。どうか、お心に留めてお待ちください。よろしくお願いいたします。山城と石川の両高僧は、深くあなたに帰依しており、その気持ちをお伝えしたいと望んでいます。
ところで法会のためにととのえた仁王経などの経典は、国分寺の講師が持ち帰ったままで、まだ返して参りません。後日、わたくしが言って取り返してきます。どうぞあしからず、お許しくださいますように。帰りの使いにこの手紙を持たせます。よろしく。
9月5日
3通が書かれた年はそれぞれ違う
これらの3通は、それぞれ9月11日、9月13日、9月5日と、偶然にも同じ9月に発信された手紙ですが、それらが互いに関連があるようには思えません。
そのため、それぞれ別の年に書かれたものと考えられます。
いま、これらそれぞれを第1通を何年、第2通を何年と改まって推測することはできませんが、空海が40歳前後の筆跡と示すということだけが分かっています。
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