欧陽詢の九成宮醴泉銘について詳しく解説【臨書の正しい書き方・特徴・コツ・書風/内容なども紹介】

九成宮醴泉銘について解説/書き方・特徴

九成宮醴泉銘きゅうせいきゅうれいせんめいは、中国・唐時代の書家欧陽詢おうようじゅんが76歳で書いた楷書の最高傑作です。1500年以上にわたって「楷法かいほう極則きょくそく」と称され、楷書の手本として使われ続けてきました。SHODO FAMのオンライン書道教室でも、九成宮醴泉銘の臨書は定番人気のコースのひとつです。

この記事では、九成宮醴泉銘の横画・縦画・はね・右はらい・左はらい・背勢・戈法の臨書7つのポイントを図解付きで解説します。さらに、文字全体の構造(結体)のコツ、初唐三大家の書風比較表、おすすめの法帖情報もあわせて紹介します。

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目次

九成宮醴泉銘とは?(楷法の極則と呼ばれる楷書の最高傑作)

九成宮醴泉銘の原碑
九成宮醴泉銘の原碑

九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんめい)は、中国とう時代の第2代皇帝・太宗たいそうの治世や唐王朝の徳を称えた内容が刻まれた石碑です。楷法かいほう極則きょくそくとは、「楷書の書き方の究極のルール」という意味で、九成宮醴泉銘がそれほど完成度の高い作品であることを示しています。

楷書は3世紀ごろ中国で誕生し、唐時代の7世紀にはその典型が確立されました。その典型的な作品のひとつが、楷法かいほう極則きょくそく」として古くから評価される九成宮醴泉銘です。

この碑は現在も陜西省せんせいしょう麟遊県りんゆうけんの山中にあり、保護されています。全体で1108字、1行50字で24行にわたって彫られており、上部には篆書で「九成宮醴泉銘」と刻まれています。文章は魏徴ぎちょうが作成し、文字は欧陽詢(おうようじゅん)が書きました。

ここからは、作者の欧陽詢について、そして初唐三大家の書風比較を見ていきましょう。

作者は欧陽詢(初唐の三大家のひとり)

九成宮醴泉銘を書いた人物は、「初唐しょとう三大家さんたいか」の一人として知られる欧陽詢おうようじゅんです。正史でも当時の第一等の名手と称された欧陽詢は、筆力の強さで他に並ぶ者がいなかった書家です。

欧陽詢は、もともと王羲之おうぎしに代表される南朝なんちょうの美しく整った書風を重んじていました。しかし、後年になると造像記をはじめとする北朝ほくちょうの厳しい書風の影響も受けるようになります。この南北両方の書風の融合が、彼の作品に独特の力強さと厳粛さを与えました。九成宮醴泉銘は、欧陽詢が76歳のときに書いた作品です。

臨書を教えていると、「欧陽詢の書風って具体的にどんな特徴があるんですか?」と聞かれることがよくあります。ひと言でいえば、引き締まった字形と鋭い起筆が最大の特徴です。向かい合う縦画が内側に反る「背勢」の構造で、文字全体にキリッとした緊張感があります。このあたりの詳細は、次の三大家比較でさらに掘り下げます。

欧陽詢についてさらに詳しく知りたい方は、「欧陽詢(おうようじゅん)について解説/どんな人生を送った人なの?彼の書風の特徴は?」をご覧ください。

初唐三大家の書風比較(欧陽詢・虞世南・褚遂良)

初唐しょとう三大家さんたいかとは、欧陽詢おうようじゅん虞世南ぐせいなん褚遂良ちょすいりょうの3人を指します。いずれも太宗たいそう皇帝に仕えた書家で、唐時代の楷書を代表する存在です。3人の書風を比較すると、それぞれの個性がはっきりわかります。

項目欧陽詢虞世南褚遂良
書風の印象厳格・引き締まり典雅・穏やか流麗・しなやか
縦画の特徴背勢(内側に反る)向勢(外側にふくらむ)柔らかな曲線
起筆鋭く45°で入る丸みのある入り方抑揚のある入り方
線の太さ均一で安定均一で柔らか太細の変化が大きい
代表作九成宮醴泉銘孔子廟堂碑雁塔聖教序
書の系譜南朝+北朝融合王羲之直系の南朝書風王羲之を発展させた独自路線

九成宮醴泉銘の臨書に取り組むときは、この「厳格さ」を意識して書くと欧陽詢らしい字形に近づけます。虞世南のように丸く書いたり、褚遂良のように太細を極端につけたりすると、欧陽詢の書風から離れてしまうので注意してください。

欧陽詢の他の楷書作品(化度寺碑・温彦博碑・皇甫誕碑)について詳しく知りたい方は、「欧陽詢の楷書作品4つすべてを紹介」をご覧ください。また、初唐の三大家についてもあわせてどうぞ。

九成宮醴泉銘の書き方:臨書の7つのポイント

九成宮醴泉銘の臨書では、筆づかいの特徴をしっかりおさえることが大切です。「引き締まっている」「キリっとしている」という九成宮醴泉銘のイメージを表現するために、以下の7つのポイントを意識して練習しましょう。

横画はキリッと鋭く(45°の入筆)

九成宮醴泉銘の横画の書き方 45度の角度で入筆

九成宮醴泉銘の横画は45°の角度で入筆している線が多く見られます。まずはこの鋭い起筆をマスターすることが重要です。

臨書を教えていると、横画の入筆でつまずく方がとても多いです。普段、行書やひらがなを書いている方だと角度がゆるい入筆に慣れてしまっているので、最初は筆が思うように動かないかもしれません。そこは練習していると自然に感覚がつかめてきます。

基本的な横画が書けるようになったら、上下の反り・筆圧の浮き沈みにも注意して書いてみましょう。図の「三」字のように、上下の反りと起筆・終筆に筆圧を加えることで引き締まった印象を表現できるようになります。

縦画はスッと揺らがない

九成宮醴泉銘の縦画の書き方 まっすぐ揺らがない線

九成宮醴泉銘の長い縦画は、力強く、息の長さを感じさせる線です。運筆の途中でも一貫して力強さが保たれ、微動だにしません。

起筆の角度は45°より少し急な角度で入筆している場合が多いです。

図の「千」字のようなはらいのある縦画は、終筆に向かって筆圧を増し、少し太くなっていきます。最後には、しずくがしたたり落ちるかのようにゆっくりとはらい抜きます。生徒さんからよく聞くのが「途中で線がブレてしまう」という悩みですが、腕全体を安定させて、手首だけで動かさないように意識すると改善しやすいです。

はねは小さく90°

九成宮醴泉銘のハネの書き方

はねは、力を凝縮して先端まで力を抜かずに、短めにはねています。あまり勢いをつけすぎずに、筆先をまとめるようなつもりではねましょう。

生徒さんからよく聞くのが「はねがうまくいかない」という悩みです。コツは、はねる直前に一瞬止めて力をためること。そこから90°の角度でコンパクトにはね上げると、九成宮醴泉銘らしいキレのあるはねになります。

「也」字の最終画のはねは、〝はらい〟のように上へ押し出しています。外へ大きくふくらみながらはねることで、大胆な空間を文字の中に作り、引き締めた空間と対比させています。

右はらいは水平にはらいだす

九成宮醴泉銘の右はらいの書き方 水平にはらいだす

右はらいは筆の弾力を活かして徐々に太くし、下の曲がるところで一旦筆を止め、水平にはらいだします。

はらいだす方向が水平方向ではなく、ななめ上や下になってしまうと字形がアンバランスになってしまうため注意しましょう。教室でも、右はらいの角度がそろわないせいで字全体のバランスが崩れているケースをよく見かけます。水平方向を意識するだけで、仕上がりがぐっと変わります。

左はらいは加速しながら抜く

左はらいひだりはらいとは、右上から左下に向かってはらう画のことです。九成宮醴泉銘の左はらいは、起筆で一旦しっかり力を入れてから、徐々に加速して筆を抜いていくのが特徴です。

ポイントは2つあります。まず、起筆の段階ではやや太めに入ります。次に、途中から筆を浮かせるようにして加速し、先端を鋭く抜きます。最初から最後まで同じ速度で引いてしまうと、先端がぼやけて締まりのない線になります。

右はらいが「止めてから水平に出す」のに対して、左はらいは「加速しながら抜く」という対照的な動きになります。この違いを意識すると、左右のはらいのコントラストが生まれ、文字全体に動きが出てきます。

点にも方向・角度・長短・太細がある

九成宮醴泉銘の点の書き方

点は、その方向・角度・長短・太細がさまざまなものがあります。よく観察して筆の入る方向と抜く方向に注意して書きましょう。

筆づかいの注意ポイントとして、毛の向きを点の向きとあわせて「しずく」のような形にならないように注意しましょう。筆の向きは基本的に斜め45°をキープします。

向かい合う縦線は内側にそる(背勢)

九成宮醴泉銘の特徴(背勢)

背勢はいせいとは、向かい合う縦画がたがいに内側へ反り返り、文字全体が引き締まった字形になる構造のことです。九成宮醴泉銘は、向かい合う縦画が内側に反っているという特徴があります(背勢)。これにより文字全体がキリッと締まった印象になります。

  • 背勢はいせい…向かい合う縦画が、たがいに反り返り、1字全体が引き締まった字形のもの。
  • 向勢こうせい…向かい合う縦画が、たがいに外側に膨らみ、1字全体がゆったりと丸みを帯びた字形のもの。

上の画像を見てもらうと、九成宮醴泉銘は縦線が内側にそっているのがわかります。反対に、虞世南の孔子廟堂碑は向勢で、丸みのある字形になっています。どちらが正しいということではなく、書風の違いとして理解しておくと、臨書のときに迷わなくなります。

ここまでの7つのポイントは筆づかい(用筆)の話でした。次のセクションでは、文字全体の構造(結体)について解説します。

九成宮醴泉銘の結体——文字全体の構造をつかむ

結体けったいとは、一つの文字のなかで各画をどう配置し、どんな形にまとめるかという「文字の構造」のことです。九成宮醴泉銘の結体には明確な特徴があり、用筆(筆づかい)と合わせて理解すると臨書の精度が大きく上がります。

概形は縦長(直勢)に取る

九成宮醴泉銘の文字は、全体の概形(外側の輪郭)がやや縦長になっています。これを書道用語では直勢(ちょくせい)と呼びます。

正方形や横長に書いてしまうと、九成宮醴泉銘の雰囲気から離れてしまいます。お手本をよく見ると、横幅に対して縦がやや長い比率で書かれていることがわかるはずです。最初のうちは、半紙にうっすら縦長の枠を意識しながら書くと、自然にこの概形が身につきます。

余白を均等に割る意識

九成宮醴泉銘のもうひとつの結体の特徴は、文字内部の余白が均等に配分されている点です。横画と横画の間隔、縦画と縦画の間隔が、驚くほど等間隔に整えられています。

たとえば「書」のような画数の多い字でも、横画の間隔がほぼ等しくなっています。この均等な余白が、九成宮醴泉銘の整然とした美しさを生み出しています。

練習のコツとしては、まず字の中の「空間」を見る習慣をつけることです。線そのものではなく、線と線のあいだの白い部分に意識を向けると、バランスのとれた字が書けるようになります。個人的には、最初に余白の取り方を意識するだけで臨書の完成度がかなり変わると感じています。

戈法(かほう)の書き方

戈法かほうとは、「武」「成」「戈」などの文字に見られる、右上から左下へ向かう斜めのはらいの書き方のことです。九成宮醴泉銘では、この戈法が独特の表現で書かれています。

書き方のポイントは3つあります。

  1. 起筆は横画と同じく45°前後の角度でしっかり入る
  2. 斜めに下ろしていく途中で筆圧を徐々に増していき、線が少しずつ太くなるように運筆する
  3. 終筆部分では筆を止めてから小さくはね上げる

「成」の字を例にとると、斜めはらいの角度やカーブの具合が字全体のバランスを決めます。はらいが急すぎると窮屈な印象になり、緩すぎるとだらしなく見えます。お手本をよく観察して、角度と筆圧の変化を意識しながら練習してみてください。

戈法は結体のなかでも難しい部分ですが、ここがきれいに書けると文字全体の完成度が一気に上がります。九成宮醴泉銘の臨書をもっと深く学びたい方は、SHODO FAMのオンライン書道教室でコース別の専門講師から直接アドバイスを受けることもできます。

九成宮醴泉銘の上達には道具選びも大切

九成宮醴泉銘の臨書で上達するには、適切な道具選びが欠かせません。特に筆の選び方は練習の効率に直結します。合わない筆を使い続けると、上達しないばかりか、間違った書き方の癖がついてしまうこともあります。

「お手本通りにうまく書けない」「筆が思うように動かない」と感じる方は、普段使っている筆を見直してみてください。道具を変えるだけで書きやすさが大きく変わるケースは少なくありません。

九成宮醴泉銘のような鋭い起筆や繊細なはねを表現するには、穂先のまとまりが良く、弾力のある筆が適しています。柔らかすぎる筆だと45°の鋭い入筆がぼやけてしまい、硬すぎる筆だと線に表情がつきにくくなります。筆選びに迷ったら、書道筆おすすめランキングの記事で用途別に選び方を紹介していますので参考にしてみてください。

おすすめの法帖・参考書

九成宮醴泉銘を臨書するためには、良い法帖(お手本)を選ぶことも大切です。現在入手できる法帖のなかで、特におすすめのものを紹介します。

海内第一本」(三井記念美術館蔵)をもとにした法帖は、線が明瞭で見やすいのが特徴です。日本だけでなく中国でも多くの方がこの拓本を使って練習しています。二玄社から出版されている法帖が定番で、原寸大の図版で細部まで確認できます。

李祺旧蔵本」(北京故宮博物院蔵)は、現存する最古の拓本です。海内第一本より古いため文字の損傷が少なく、欧陽詢の筆意により近い字形を見ることができます。

個人的には、まず海内第一本の法帖から始めるのをおすすめしています。ある程度慣れてきたら、李祺旧蔵本と見比べながら臨書すると、より深い理解が得られます。

参考文献

  • 二玄社 編『中国法書選31 九成宮醴泉銘』二玄社
  • 西林昭一『九成宮醴泉銘の臨書と鑑賞』天来書院
  • 高塚竹堂『楷書がうまくなる本 九成宮醴泉銘』二玄社

九成宮醴泉銘の魅力と歴史

九成宮醴泉銘は、632年(貞観6年)に制作された石碑です。ここからは、制作背景や歴史的な位置づけについて掘り下げていきます。書かれている内容や関わった人物を知ることで、臨書に対する理解も深まります。

書かれている文章の内容

九成宮きゅうせいきゅう」とは、とう時代の皇帝が使っていた離宮りきゅう(都とは別の場所にある宮殿)のことです。

九成宮図巻(部分) 大阪市立美術館
九成宮図巻(部分) 大阪市立美術館

この宮殿は、もともとずい時代の文帝ぶんていによって「仁寿宮じんじゅきゅう」という名前で建設されましたが、とうの第2代皇帝・太宗たいそうが修復し、「九成宮きゅうせいきゅう」と改名しました。王室とは別に設けられた宮殿として、夏の暑さを避けるための避暑地として使われました。

この九成宮は標高の高い場所にあったため、水源に乏しいという欠点がありました。しかし、貞観じょうがん6年(632年)、太宗たいそう皇帝が皇后こうごうと一緒に宮殿を散歩していた際に、偶然にも西の一角で潤った場所を見つけました。そこで杖を使って地面をつつくと、美しい水が湧き出てきたのです。この幸運を記念して、太宗皇帝は唐王朝の徳を称える内容の文を作らせました。この文が九成宮醴泉銘です。

九成宮醴泉銘の詳しい内容について知りたい場合は、こちらの「九成宮醴泉銘の全文現代語訳/日本語訳」をご覧ください。

制作を命じたのは太宗皇帝

唐の太宗皇帝
唐の太宗皇帝

九成宮醴泉銘の制作を命じたのは、とうの第2代皇帝・太宗たいそうです。太宗皇帝は598年から649年まで生き、唐の重要な時代を築いたことで有名です。

太宗皇帝は、唐の前王朝であるずいの混乱期に父・李淵りえん(高祖)に挙兵を勧め、唐を建国しました。彼の父は初代皇帝となり、太宗皇帝は626年に即位しました。太宗皇帝は内政・外交に力を入れ、後世「貞観じょうがん」と呼ばれる優れた治世を実現しました。そのため、中国史上で最高の名君とされています。

また、太宗皇帝は書道にも造詣ぞうけいが深く、歴代皇帝の中でも特に優れた書人とされています。彼は王羲之おうぎしを崇拝し、書道の発展に貢献しました。文教政策の一環として、高官の子弟を集めて弘文館こうぶんかんを設立し、欧陽詢おうようじゅん虞世南ぐせいなん弘文館学士こうぶんかんがくし(指導教官)に任命しました。

太宗たいそうについて詳しく知りたい方は、「書道で活躍した皇帝・太宗(たいそう)について詳しく解説」をご覧ください。

文章をつくったのは魏徴

九成宮醴泉銘の文字を書いたのは欧陽詢おうようじゅんですが、その文章を作ったのは魏徴ぎちょう(580〜643)という人です。

魏徴は唐の李淵りえん(初代皇帝)と太宗たいそう(第2代皇帝)の2人に仕え、特に太宗の「貞観じょうがん」の時代に功績を上げたことで有名です。魏徴は、はじめ太子洗馬たいしせんば、太宗の即位後には諫議大夫かんぎたいふとなり、鉅鹿男きょろくおうに封ぜられました。629年(貞観3年)には秘書監ひしょかんに任命され、政務に参画し、さらに校検侍中こうけんじちゅうに進みました。

魏徴は読書を好み、文章にも優れており、太宗がりょうちんずいなどの歴史書を編集する際には、必ず彼を撰者せんじゃの1人に加え、序論の多くも彼の手によるものでした。また、魏徴は書道にも秀でており、太宗が王羲之おうぎしの筆跡の鑑定を命じた際には、虞世南ぐせいなんとともに鑑定を行いました。虞世南が亡くなった際には、代わりの人物として褚遂良ちょすいりょうを推薦しました。

魏徴は64歳で亡くなり、文貞ぶんていという諡号おくりなたまわりました。九成宮醴泉銘の銘文は、彼が53歳の時に作ったものです。

拓本:古いものと新しいものの違い

九成宮醴泉銘は、欧陽詢おうようじゅんの最高の書として古くから人気が高く、多くの拓本たくほんが作られてきました。拓本たくほんとは、石碑の表面に紙を当てて墨を打ち、文字を写し取ったもののことです。

拓本を取るたびに表面が研磨されるため、文字の線が細くなります。その後、その細くなった線を太くしようとして彫り直しが行われることが多いため、現在では元の字形が失われてしまっています。これにより、古い拓本と新しい時代に取られた拓本では、線の太さや字形が異なってしまっています。そのため、古い拓本は非常に珍重されています。

九成宮醴泉銘の現在の碑面
現在の碑面

現在、最も古い九成宮醴泉銘の拓本は、中国の北京故宮博物院に所蔵されている「李祺旧蔵本りききゅうぞうぼん」(明の李祺りきが旧蔵していた拓)です。次に古いものとしては、日本の三井記念美術館に所蔵されている「海内かいだい第一本だいいっぽん」があります。海内第一本は、線がより明瞭で見やすいため、日本だけでなく中国でも多くの人がこれを使って練習しています。

九成宮醴泉銘の原碑拓本
九成宮醴泉銘の拓本 左:李祺旧蔵本 右:海内第一本

また、九成宮醴泉銘は人気が高いため、多くの模刻本もこくぼんも存在します。模刻本もこくぼんとは、誰かが九成宮醴泉銘を手本にして、その文字を石に彫り、拓本を取ったもののことです。現代の印刷技術が発達した時代ではこれらの模刻本は本物と比べて価値が低く、新しくて見やすいものの、本物の字とは異なるため、注意が必要です。

刻字と筆文字の違い

「こんな鋭い筆使い、本当に筆で書けるの?」と感じたことはないでしょうか。九成宮醴泉銘を臨書したことがある方なら、一度はこの疑問を持ったことがあるはずです。

実際に石に彫られた文字は、元々の筆で書かれた文字と完全には一致しません。彫刻には独自の技法が使われ、筆で書いた文字の起筆や終筆、はね、はらい、点折の形状、字画の微妙な太さなどが全く同じようには刻まれていないのです。彫り方には独特の工夫や表現が加えられており、そのため元の文字とは微妙な違いが生じます。

たとえば、起筆や終筆の角度、画の尖端を鋭く残すかどうか、起筆や終筆に重きを置くか、送筆を重視するかなどによって、彫り方に微妙な違いが生まれます。そして、それが独特の書風として鑑賞されるのです。

九成宮醴泉銘が鋭く見えるのは、筆で書いた文字の表現を彫刻技法で再現しようとしているからです。肉筆の文字とは違い、北魏時代の字(造像記など)よりも肉筆的でありながらも、刻字そのものとは異なる独自の姿をしています。

この点を理解しながら臨書に取り組むと、「お手本と完全に同じにならない」ことに納得がいくはずです。刻字の鋭さをそのまま筆で再現するのではなく、欧陽詢がもともと書いた筆の動きを想像しながら臨書すると、より自然な書き方に近づけます。

よくある質問(FAQ)

Q. 九成宮醴泉銘の読み方は?

A. 「きゅうせいきゅうれいせんめい」と読みます。「九成宮」は唐時代の離宮の名前、「醴泉」は甘い水が湧く泉、「銘」は記念の碑文という意味です。漢字が多くて難しく見えますが、「九成宮の醴泉の銘」と区切ると覚えやすくなります。

Q. 九成宮醴泉銘は初心者でも臨書できますか?

A. 楷書の基本を学んだ方なら取り組めます。45°の鋭い入筆やはねの角度など細かい技術が求められるため、まずは横画や縦画の基本から段階的に練習するのがおすすめです。独学で進めるよりも、専門の講師に見てもらいながら練習したほうが上達は早いです。SHODO FAMのオンライン書道教室では、古典臨書の専門コースを用意しています。書道の先生にはそれぞれ得意・不得意があるので、臨書に強い講師から学ぶのがポイントです。

Q. 九成宮醴泉銘の臨書に適した法帖はどれですか?

A. まず「海内第一本」をもとにした法帖がおすすめです。線が明瞭で初心者にも見やすく、二玄社から出版されているものが定番です。慣れてきたら「李祺旧蔵本」の図版と見比べると、欧陽詢の筆意により近い字形を学べます。

Q. 九成宮醴泉銘の臨書にはどんな筆が合いますか?

A. 穂先のまとまりが良く、適度な弾力のある筆が向いています。柔らかすぎると45°の鋭い起筆がぼやけ、硬すぎると線に表情がつきにくくなります。具体的な選び方は書道筆おすすめランキングの記事を参考にしてみてください。

Q. 九成宮醴泉銘がうまく書けないときの練習方法は?

A. まずは一画ずつ分解して練習するのが効果的です。横画だけ、縦画だけ、と個別に書き込んでから文字全体を臨書すると、バランスがとりやすくなります。それでも思うように書けない場合は、筆が合っていない可能性もあります。道具の見直しと合わせて、SHODO FAMのオンライン書道教室でコース別の専門講師からアドバイスを受けるのもひとつの方法です。

まとめ:7つのポイントをおさえて九成宮醴泉銘を臨書しよう

九成宮醴泉銘は、欧陽詢おうようじゅんが76歳で書いた楷書の最高傑作であり、1500年以上にわたって「楷法の極則」と称されてきた作品です。

九成宮醴泉銘の書き方をまとめると、

  • 横画は45°の角度で入筆する鋭い起筆がポイント。まずここをマスターすることが最優先。
  • 縦画は息の長さと力強さを兼ね備え、途中で揺らがない安定感が大切。
  • はねは力を凝縮して短めに90°ではね上げる。直前に一瞬止めて力をためるのがコツ。
  • 右はらいは筆の弾力で徐々に太くし、水平方向にはらいだす。角度がずれると字全体が崩れる。
  • 左はらいは起筆で太めに入り、加速しながら鋭く抜く。右はらいとの対比を意識する。
  • は方向・角度・長短・太細がさまざま。入る方向と抜く方向をよく観察して書く。
  • 背勢は向かい合う縦線が内側に反る構造。これが九成宮醴泉銘の引き締まった印象を生む。

用筆に加えて、結体(文字の構造)も重要です。概形を縦長に取ること、余白を均等に配分すること、戈法のバランスを意識すること。この3つを身につけると、臨書の完成度が一段上がります。

九成宮醴泉銘の臨書には適切な道具も欠かせません。穂先のまとまりが良く弾力のある筆を選ぶことで、表現力が向上し上達のスピードが速まります。筆選びに迷っている方は書道筆おすすめランキングも参考にしてみてください。

九成宮醴泉銘は単なる技術練習ではなく、唐時代の文化や美意識に触れる入口でもあります。欧陽詢が76歳で到達した書の境地、太宗皇帝の文教政策、魏徴の文章力。これらの背景を知ったうえで臨書に取り組むと、一画一画に込められた意味がより深く感じられるはずです。

SHODO FAMのオンライン書道教室では、古典臨書のコースごとに専門講師がマンツーマンで指導しています。九成宮醴泉銘の臨書を本格的に学びたい方は、まず体験レッスンから始めてみてください。

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楷書の鋭い線の表現と行書のやわらかい線の表現、両方の特長を兼ね備えておりまとまりのよい穂先も魅力。

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