中国の法帖草書書論

孫過庭の書譜について、内容、書風、特徴を紹介

中国の法帖

孫過庭そんかていが文章の内容を考え、自身が書いたとされる「書譜しょふ」は、草書の名品として、またすぐれた書論しょろんとして、高く評価されてきました。

今回は、孫過庭について、書譜の内容、書風、特徴を紹介していきます。

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孫過庭について

孫過庭像
孫過庭像

孫過庭そんかていは、唐時代の書人です。孫過庭本人についての伝記には諸説があり、はっきりとしたことは分かっていません。

あざな虔礼けんれい。呉郡(江蘇省蘇州)の人と言われています。

その生きていた年も(648?~703以前)と定かではありません。

孫過庭という名前についても、「書譜しょふ」の冒頭に「呉郡孫過庭撰」とあることから、孫過庭と言われていますが、陳子昂ちんすごうの「率府録事そつふろくじ孫君墓誌銘そんくんぼしめい」には名前が虔礼、字を過庭としています。

出身地も、陳留(河南省)、富陽(浙江省)、呉郡(江蘇省)など諸説あり、官職についても右衛冑曹参軍率うえいちゅうそうさんぐんそつであったとも率府録事参軍そつふろくじさんぐんであったとも言われています。

どちらも下級官職であることから、政治的にはほとんど無名であったようです。

また、孫過庭は博学で、文章に優れていたと言われていますが、「書譜」以外は伝わっていません。

書譜について

孫過庭の「書譜」#1
孫過庭の「書譜」#1(クリックで高画質表示)

書譜しょふは、孫過庭が書について論じた自らの文章を、草書で書かれた草稿本です。

幅44センチの紙を23紙継いだ役27×900センチ、全長10メートルにおよぶ巻子本です。全部で3727文字もある長文です。

書譜が書かれたのは、唐の中頃。孫過庭が40歳前後の頃に書かれたと推定されます。巻末の款記かんき(末尾)によると、垂拱すいきょう3年(687)に書かれたとあります。ただし、落記は始め「元」と書きかけ、「三」と改めた形跡があります。

現在は1巻に仕立てられていますが、分断された痕跡や亡失した部分、汚損などが見られます。幸いにも宋代にとられた拓本の太清楼たいせいろう帖本、薛氏せつし本(元祐げんゆう本)、安麓村あんろくそん本(天津てんしん本)、停雲館ていうんかん帖本、三希堂さんきどう帖本など数多くの刻本によってその亡失した部分の内容を補うことができます。

書譜の内容

孫過庭の「書譜」#2
孫過庭の「書譜」#2(クリックで高画質表示)

書譜の内容は、六朝時代の書論を基盤としながら、王羲之を典型にとらえ、漢・魏以来の名家や書論を評価し、書の本質や価値、学書に対する考えなどが書かれています。

一般的に6編に分けられます。

第1篇(四賢論と王羲之への称賛)

四賢(張芝ちょうし鍾繇しょうよう、王羲之、王献之)を書道史上の四大家として褒めたたえています。その中にも優劣があり、その根拠を説明しながら、最終的には王羲之こそが書の典型であるとしています。

第2篇(書の概念と本質)

書の本質について解説しています。具体的な各書体について言及し、書とはいかに表現されてきたか、またどのように表現されるべきかを考察。人間の性質と形質の関係にも触れた哲学的ともいえる内容です。

第3篇(六朝時代からの書論の論評)

六朝時代から今までの書論は単なる技巧論であると批判しています。彼は精神論にまで踏み込み、芸術の境地へ達するすべを明らかにするための論を展開していくべきだと述べています。

やや序論めいた物言いで書かれていることから、現存の「書譜」はあくまで序論にすぎないのでは、という議論もあります。

第4篇(技法と表現)

運筆論を基として、執(用筆法)・使(直筆法)・用(曲線法)・転(点画法)の4つの技法を統合することが書の最も大切なところだとしています。また王羲之はそこに心法を加え、書が思想感情を表現する芸術にまで高めていると結論しています。

第5篇(書学の段階と書の妙経)

書学の段階を、平正→険絶→平正と対立(矛盾)する2つのモノを1つにして説いています。しかる後に人間としての深みが増し、それと共に書も熟達していくことが理想であると述べています。

第6篇(書の妙経を得て初めて書を論ずることができる)

芸術の境地に達した表現はなかなか欲眼では理解しがたいものがあるとなげいています。自分の書とその論の正しさを匂わせ、世間一般の凡識を批判しながら、芸術鑑賞論を展開していきます。

書譜の名言を紹介

ここからは書譜の中で有名な言葉を紹介していきます。

1つ目は表にした方が分かりやすいと思ったのでそうしてみました。

「合」(調子のよい時) かい」(調子の悪い時)
心が和らいで余裕のある時あわただしく身体がだるい時
感覚がえ何事もすぐ理解できる時気持ちを集中できず気力が充実しない時
気候が穏やかな時空気が乾燥し炎天の時
紙と墨がよくなじむ時紙と墨がなじまない時
書いてみようと書作への意欲がふとわいた時感興がわかず手が思うように動かない時

王羲之の書はいつの世も称揚され習う者が多い。書法として優れており、書学者の指針としてふさわしい。これは古今の書法に精通しているばかりではなく王羲之の書には気品があり、自然な趣をかもし出しているためである。

思索しさくは年を取るにつれて深まるが、学習は若い時代に励むべきである。

古人の書を学ぶとき、精緻せいち(非常に細かい点にまで注意すること)な姿勢で書かなければならない。臨書するときは、筆跡全体がそっくり似るように学習すべきである。臨書して似せることができず、細かいところまで観察・分析しない学習法では、古人の書境に近づくことはできない。

書譜の書風・特徴

孫過庭の「書譜」#3
孫過庭の「書譜」#3(クリックで高画質表示)

孫過庭は王羲之の書風をよくし、この書譜も王羲之の草書を基盤としています。

唐の太宗たいそう皇帝が王義之を崇拝していた当時の風潮を反映しているのでしょう。

そのため用筆は技巧的にも洗練されており、現代においても「十七帖じゅうしちじょう」と並んで草書の典型とされ、草書学習には欠かせない古典です。

節筆

書譜には「節筆せっぴつ」と呼ばれる箇所があります。幅約2,4センチ間隔の縦の折り目に筆先がぶつかり、点画の所々が独特な線の表情になっているところを言います。節筆の部分は太く変化しています。

この節筆は偶然できたものですが、表現上多彩な表情を生み、書風の魅力の1つにもなっています。

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