潤格(潤例)とは
書道において、作品の揮毫料の一覧表を潤格または潤例といいます。
潤格の発生時期はわかっていませんが、潤格が使われていた事例は明末(1600年ごろ)から見られます。
職業書画家にとって、揮毫料は唯一の収入源であり、自分の実力に見合っただけの収入を確保する必要がありました。
潤格は作品を求める人を制限する役割も果たした
近代の文章家の鄭逸梅は、潤格の意義を、
「従来、書画家の売芸には、おおむね潤格が定められていて、これによって生計を立てているにほかならないのであるが、同時にまた、作品を求める人が多い場合、すべてに対応していては身がもたないが、潤格があれば何とか制限できるという役割もはたす。」
と言っています。
この「作品を求める人」を「制限」するため、潤格に基づいて揮毫料を取るという見解を言い換えれば、書画家の想いに答えるだけの揮毫料を支払おうとしない人たちが存在し、そのような人たちを締め出すために潤格が定められなければならなかったということになるのではないでしょうか。
書画は技巧を大切にする工人(職人)的なものと、意趣を大切にする文人(趣味)的なものの2つに分けることができます。
工人的な作品は他人に提供されることを前提としているため、制作には時間と労力がとてもかけられていることが作品を一目見ただけでわかるので、作品の売買にはあまり問題ありません。
しかし、文人的な作品は自己の表現が目的のため、一息で作られることが多く、もし他人に与えることがあっても、作品へのアドバイスや友人関係を求めるという目的から無償であることが建前なのです。
実は、潤格が発生した当時活躍した職業書画家のほとんどは、この文人的な書画を作っていて、知り合いならば無償で作品のやり取りをしながら、他人には作品を売ろうとしていたのです。
つまり、書画家にとってはあまり親しいと思っていない人が作品を求めてきたような場合、無償か有償かをいちいち考えなければならないという煩わしさが生じていたのでした。
とはいえ、揮毫料を相手任せにしてしまうと、一息に仕上げる文人的書画は人によって評価がばらばらで、中には書画家の想いに答えるだけの揮毫料を支払ってくれない人もでてきます。
そこで、書画家が潤格を示し、一定の揮毫料をとることを前提とすれば、このような問題は一挙に解決し、円滑な作品売買ができるのです。
潤格が流行った時期の、明から清にかけての書家はこのシステムにのっとって活躍していきました。