書体は楷書・行書・草書・隷書・篆書の5書体にわけられますが、今回注目する篆書はもっとも歴史が古い書体です。
日本に文字が伝わった古墳時代、いまからおよそ1500年前には中国ですでに5つの書体すべてが完成しており、日本において日常的に使われる通行書体として篆書を使う必要はありませんでした。
では、日常的に使う必要のない篆書がどうして日本にも伝わって使われるようになったのでしょうか。
今回は日本へ篆書が伝わったきっかけと、篆書が多くの人に広がって書かれるようになったことについて紹介します。
篆書とは
篆書とは、中国において古く周・秦時代に使われていた書体で、のちに隷書が使われるようになり、篆書は特殊なものとして用いられていました。
たとえば、漢時代以降の石碑の題額は篆額ともよばれて、篆書で書かれる場合が多いです。碑文は隷書で書かれていても、額の文字だけは篆書で書かれているのです。
これは、篆書の書風が古典的であり、また造形的であって、題額の書体に適していることから採用されてきたと思われます。
日本への篆書の伝来
日本は中国よりも歴史が浅いので、篆書が使われていた時代の王朝周・秦とはかかわりがありません。
日本において篆書の資料としてもっとも古いのが、「漢委奴国王」の金印です。
これは天明4年(1784)2月、福岡県の志賀島で石槨(棺を納める石造りの容器)の下から発見されました。
しかしこれは中国で作られたとみられる資料であって、日本の古代にこのような文字が使われていたという証拠にはなりません。
日本ではじめて篆書の書体が使われていたことがわかるのは奈良時代です。
正倉院宝物の「鳥毛篆書屏風」一畳六扇がそれです。
この屏風は、天平勝宝8歳(756)6月21日に、聖武天皇の宝物のかずかずを東大寺に奉納されたなかの「御屏風一百畳」の1つで、「東大寺献物帳」の1つ「国家珍宝帳」に記載されているものです。今日、幸いにも正倉院北倉に楷書の「鳥毛帖成文書屏風」一畳六扇とともに現存しています。
日本で篆書の流行しはじめたのは江戸時代から
日本で篆書がおおくの人々に書かれるようになるのは、江戸時代に入って中国の黄檗宗の禅僧が日本にやってきたころからです。
独立(どうりゅう)・心越(しんえつ)の来日
1653年(承応2)、江戸時代の初期ごろ、独立という中国の禅僧が来日しました。
彼は書道がうまく、また篆刻にもくわしく、その技法を初めて日本に伝えました。彼の筆跡は草書が多いですが、篆書のものもみられます。
独立から20数年おくれて、1677年(延宝5)、心越が来日しました。
彼は来日する際、中国のめずらしい印譜や篆書の辞典を携えてきて、日本の篆刻界に貢献しました。
この2人は日本の篆刻の創始者として知られています。
日本にも篆書を得意とする書道家が登場
独立と心越が篆刻の技法を伝えてから、江戸において篆刻が流行するとともに、篆刻をたしなむ人々の間には、篆書を研究し、あわせて篆書を巧みに書く人があらわれました。
この時代における中国風の書道家としてもっとも有名な人物として細井広沢という人がいるのですが、かれも篆刻をよくし、篆書も書いています。
さらに細井広沢の弟子である三井親和も篆書・隷書がうまく、たまたま江戸では篆隷雑体が流行していたこともあり、彼の書いた文字を染めた染物が、「親和染」と呼ばれて世間でもてはやされました。
幕末の有名な書道家として、市河米庵がいます。彼は5書体とも正しい点画の文字を書き、天下の模範となった人物です。篆書では市河家蔵の「漁父辞」などが代表例です。
明治時代は北碑派の書風が流行する
明治時代に入ると、中国清の学者楊守敬が日本へ来日し、その影響によって日本にも北碑派の書風が流行しました。
その後には次々と日本の文人篆書家が中国清にわたり、新しい北碑派の書風を書くようになりました。
中林梧竹、北方心泉などがその例です。
また前田黙鳳の「印文学」とか、高田忠周の「朝陽閣字鑑」(明治34年、1901)、「漢字詳解」(大正元年、1912)、「古籒篇」(大正15年、1925)、服部耕石の「篆刻字林」(昭和2年、1927)などが出版され、中国の書籍ともあわせて、篆書の書体がよく整理されました。
篆書は珍しい古代文字てあることと、その造形的な点に特色があるので、現代になってからも書道家にくみ取られて、書道の作品にもよく使われています。また、篆刻で使う書体のため、作品に押す印の書体として残っています。
篆書をもっと上手になりたい!扱いやすい書道筆をお探しの方へ
書道をやっているけど、
「お手本のようになかなか上手に書けない…」
「筆が思うように動いてくれない…」
という方のために、美しさ・使いやすさが追求された書道筆「小春」を紹介します。
この筆は、毛の長さがちょうど良く、穂の中心部分にかための毛が採用されているため、弾力がでてしっかりとした線が書けます。穂の外側は柔毛のため線の輪郭もきれいです。
半紙4~6文字に適しています。
Amazonで気軽に購入できるので、一度試してみてはいかがでしょうか。
当メディア「SHODO FAM」では、
書道についての歴史や作品、美学などを紹介しています。
書道についてのさまざまな専門書をもとに、確実で信頼性の高い情報をお届けしています。
書道についての調べものの際にはぜひご活用ください。
参考文献:田中勇次郎著作集第五巻