曹全碑は中国の歴史的な書道作品であり、その美しさと独特な特徴が注目されています。
本記事では、曹全碑の基本情報・内容・魅力について詳しく解説します。
また、臨書のための書き方・特徴も紹介します。
曹全碑の基本情報
曹全碑は、曹全という人物の功績を称えるために建立された石碑です。
後漢の末期、185年(中平2年)に作られました。
書かれた文字が優れていることから、書道芸術においてその書風が注目されています。
書体は隷書で書かれています。典型的な八分隷です。
正式名は「漢郃陽令曹全碑」と言います。
曹全碑の原石は現存しており、現在は中国の陝西省西安市の西安碑林の中に保存されています。
碑の大きさは272×95センチで、碑首はなく、20行、一行45。
曹全碑の出土と来歴
明の万暦年間(1573~1620)の初めに、今の陝西省広陽県の東、当時の都である洛陽からほど近い莘里村から出土しました。
碑石は出土時、完全な状態で文字もはっきりしており、美しい状態でした。
永らく土中に埋められていたため、石の破損が少なく、刻字当初の美しい文字の姿をとどめていました。
後漢王朝が衰え、弟の永昌太守・曹鸞も政権抗争で殺され、曹全自身も7年間身を隠したりしました。その後、黄巾の乱を収めるなどの功績で完成近くまで進められた建碑でしたが、再び政変による曹全の失脚によって、建碑に関わった人たちは、この碑が自分たちに影響を及ぼすことを恐れ、建碑することなく、そのまま地中深くに埋めてしまいました。
その結果、約1300年ものあいだ土の中で磨滅をまぬがれ、綺麗な状態で出土しました。
しかし出土してからは、おろそかな保管と歳月の浸食によって欠字が出てしまったり、台風のために木が倒れてきて碑が断裂してしまったりします。現在見ることのできる曹全碑の拓本の大部分は石碑が割れてしまった後のものです。顧公雄の家族が寄贈した《曹全碑冊》は、石碑断裂前の拓本で、欠字もない完全な状態を保存しており、もっとも貴重な拓本だと言えます。
現在は、陝西省西安市の西安碑林博物館に安置されています。
曹全碑の内容
内容は、曹全という人物が、地方の黄巾の乱を収めたことや、民政に功績をあげたことなどが記されています。
つまり彼の功績を褒めたたえるものです。
曹全碑のくわしい内容は「曹全碑 全文 日本語訳」をご覧ください。
碑の主人公:曹全とは
曹全とは人の名前で、字を景完といい、敦煌における漢人豪族の末裔です。
高祖(遠い祖先の意味)以来、5世にわたって相当な官位についていますが、曹全は幼くして父を亡くし、義祖母に養育され、継母に仕えました。
学を好み、親孝行にあつく、当時、「親を重んじ歓を致す曹景完」ということわざがあったそうです。
官についてからは、一時、党錮の禁に遭い失脚したこともありましたが、官史としては有能であっただけでなく、武将としても臨機応変な策略が得意でした。張角らによる黄巾の乱(組織的な農民反乱)のとき、陝西省郃陽令(長官)に選ばれ、治安を収めることに成功しました。
曹全碑が持つ文化的意義
隷書の規範とも言え、隷書の基本的構造を知るうえで格好の古典です。
隷書体における曹全碑の位置づけ
曹全碑は、乙瑛碑や礼器碑と並び、隷書碑がもっとも盛んになる後漢時代の代表的な作品です。
従来、礼器碑とともに漢隷の双璧とうたわれてきた作品で、漢隷の最大の特徴である波勢の美しさがあますことなく表現されています。
曹全碑の芸術的な価値と影響
曹全碑は、隷書碑のなかでも点画のすみずみまで心配りした理知的な構成と、肥痩・強弱の運筆、ゆったりとした上品で余裕のある趣、どれ1つをとっても優れています。
刻された文字ではありますが、筆意に富み、肉筆のような味わいがあります。
左右の均衡を絶妙に保つ点画構成、扁平に構え密度のある字形、伸びやかな波磔など、その書法は漢時代の隷書の1つの典型を示しています。
全く風化作用を受けず、まるで真跡に接しているかのように筆路、用筆、結体の特徴がよく分かり、しかも碑文字数の多い曹全碑は、隷書学習の入門書として最適だと言えるでしょう。
曹全碑の書き方・特徴を7つ紹介
ここからは、曹全碑の書き方・特徴を紹介します。
曹全碑は、隷書の基本的な特徴である、扁平・水平・等分割に加え、
伸びやかな横画・右はらい、ゆったりと流れるような美しさ、という点が特徴的です。
以下の書き方・特徴に注意すれば、曹全碑をうまく表現できるでしょう。
- 字形は扁平
- 水平
- 等間隔
- 丸みのある線
- 伸びやかなはらい
- 曲がり角(折れ)は2画に分けて
- 点も丸く丁寧に
以下それぞれ詳しく解説します。
字形は扁平
1つ目、隷書は基本的に扁平な形をしています。
扁平に見せるために文字造形にさまざまな工夫がみられます。
縦画を短くして横画の長さを強調する、斜めの線においても水平に近い角度、などが挙げられます。
図で紹介した文字では、
・「分」は、「八」の間に「刀」が入れる
・「布」は、真ん中の縦画を短くする
・「所」は、左の縦画が水平に近い角度ではらう
などの工夫がみられます。
横画は水平
2つ目、横画は基本的に水平です。
隷書は扁平なので、自然と横画が見立ちます。
波磔のついた長い横画があれば、横への動きはより誇張されます。
中には、波磔や偏と旁の関係によって一部の横画が傾いていたとしても、全体としては水平に見えるようにバランスをとりましょう。
線と線の間は等間隔
3つ目、水平な横画を美しく見せるためには、線と線の間隔を等間隔にすることが大切です。
単体の文字で横画が3本以上の場合、等間隔になっています。
横画が重なるときは、なるべく感覚を詰めて扁平な字形にしましょう。
丸みのある線
4つ目、始筆は、穂先を中に巻き込むようにして、先端を丸くします(蔵鋒)。
筆の入り方は、右巻き・左巻きのどちらから書いても良いです。
送筆部分は、穂先が線の中心を通るようにしましょう(中鋒)。
終筆は、止めたらそのままスッと筆を離します。
波磔のある横画は、終筆部分でいったん止めた筆を右下に押し下げ、徐々に筆を抜いていきます。
ただし、1字のなかで波磔をつけるのは、1画のみです。(一字一波)。
伸びやかなはらい
5つ目、左右のゆったりとした伸びやかさや、穏やかで軽やかな風格を表現するためには、左右に広がるはらいの勢いに注意します。
左はらいは、縦画と同じように筆を入れ、左ななめ下に向かいます。終筆部分は止めたらそのまま離すか、軽く押し出します。
右払いは、多くの場合に波磔をもっています。横画と角度は違いますが、波磔のある横画と同じような運筆ではらいましょう。
曲がり角(折れ)は2画に分けて
6つ目、曲がりかどは筆を一旦離してから、2画にわけて書きます。
それぞれ独立した2つの線を組み合わせて1画をつくるのは、隷書のおおきな特徴です。
点も丸く丁寧に
いろいろな形の点がありますが、基本的に横画、縦画と同じように丸め込んで書きます。
点は筆画のなかでもっとも小さい画です。軽視せず隷書の書き方に従って丁寧に書きましょう。
曹全碑の上達には道具も大切
ここまで曹全碑の書き方を紹介してきましたが、上達するためには道具も重要です。
ちゃんとした筆で練習していないと、いつまでも上達せず、間違った方向に進んでしまうこともあります。
作品を書く際、
「お手本のようになかなか上手に書けない…」
「筆が思うように動いてくれない…」
という方は、普段使っている筆と違う筆を試してみるといいかもしれません。
ちなみに、おすすめの書道筆は『【おすすめ】書道筆「小春」を紹介/もう筆のせいで失敗しない【悠栄堂「小春」】』を参考にどうぞ。↓
曹全碑の特徴を身につけて美しい隷書を書こう!
曹全碑の来歴・内容・隷書のなかの位置などに加え、
臨書の際に気をつけたい書き方・特徴を紹介しました。
曹全碑は、隷書の古典のなかでもとくに「ゆったりと流れるような美しさ」が最大の特徴であり、魅力的なところです。
今回紹介した書き方・特徴に気をつけ、正しい筆を使えていれば、曹全碑の美しさを表現できるようになるでしょう。