書論

書道とはどのような芸術なのか/書道とは「深さ」と「速さ」によって表現される「書きぶり」の芸術である

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前回の記事では、近代以降、外国から日本に入ってきた西欧思想せいおうしそう、とくに美術思想の影響によって、現代の書道作品に対する価値観があいまいになってしまっている、という話を紹介しました。

では、西欧思想・美術思想に影響されていない、本来の書道とはどのような芸術なのでしょうか。書道の作品に対してどのような価値観で鑑賞すればよいのでしょうか。
解説していきます。

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書道は「書きぶり」の芸術

書道の作品をみるということは、毛筆の先端と紙とが接触し、書き進められていくその過程である「書きぶり」をみているということです。
書き手から筆に加えられる力と、紙から反発する力を筆先から逆に感じながら書き進むときに生じる摩擦まさつ、その摩擦を目でみながら常に微調整し、制御されている様子が「書きぶり」です。

文字が読めなくでも、良いと思える作品があります。また、書かれた言葉はとてもいいのに、書道の作品としてはあまり良いと思えない、という例があり、またその逆もあります。

このように、書道が文章の内容とべつべつに独立しているようにも思える理由は、書道が造形や美術とながめられるからではなく、書かれた言葉を生み出す「書きぶり」が、言葉とはべつに独立しているからです。

ちなみに、毛筆のほかにもボールペンや鉛筆などの筆記具があります。どれも紙と筆記具との接触、つまり「書きぶり」を生み出しますが、ボールペンや鉛筆で書いた点画は細く、比較的均一で、毛筆よりもその「書きぶり」が分かりづらいです。毛筆は、作者が加える力も表現できるため、ボールペンや鉛筆などよりも、深さを表現しやすい筆記具なのです。

それでは、書道の表現を決定する「書きぶり」とは、どのように表現されるのでしょうか。

書道の「書きぶり」は「深さ」と「速度」によって表現される

書道の「書きぶり」は「深さ」と「速度」によって表現されます。

「深さ」について、私は「深い」という言葉があいまいでよくわからないため苦手です。物理的なプールなどの「深い」は理解できますが、よく「深みのある味ですね~」とか「深みのある作品ですね~」などと情緒的じょうちょてきな感想をいうときに使われる「深い」はなんなのかよくわかりません。

残念ながら今回紹介する「深さ」は後者の方になるかとおもいます。できるだけわかりやすく解説していきたいと思います。

それでは、書道の「深さ」「速度」とはどのようなものなのでしょうか。
それぞれ解説していきます。

書道は「深さ」をもつ芸術

絵画や書道を「平面芸術」、彫刻や建築を「立体芸術」ととらえることができます。

書道とは「平面芸術」なのです。屁理屈へりくつをいえば、紙の上に墨がすこし盛り上がるように乗っているでしょうから、立体芸術だといえるかもしれません。

しかし、書道は墨によって紙が厚みをもつ、という物理的な意味での「深み」ではなく、表現において深さの表現を持つ芸術です。

お墓などの石碑には、凹凸をつけて、亡くなった方の名前が彫られます。石屋さんが「○○之墓」と、まるで筆で書いたかのような文字を彫ってくれます。
私たちは、毛筆で書いた文字と彫った文字との間はかんたんに転換可能な直接性と同一性を感じています。平面的な書いた文字が、石に彫り込まれた立体的な石碑の文字と化しても、だれも変には思わないのです。

一般的に、太い線は深いことにたとえられ、細い線は浅いことにたとえられます。また石を掘る人は、点画が太いところは深く、細いところは浅く彫ります。さらにまた、濃い墨で書かれた文字は深く、うすい墨は浅く彫ります。うすい墨がほんわりとした感情を漂わせ、濃い墨は厳しく強い表情を漂わすことが多いのは、この点画の表現上の深さとかかわりがあります。
また、「仮名」の作品がうすい墨で書かれることが多いのは、浅瀬を走る川の水のような流動性との関係が深いです。

このように書道とは、底の見えないほどの深さと、触れるか触れないかほどの浅さを両極端として、「深々とした味わいのある作品」または「さらさらと浅瀬を流れるような作品」など、さまざまな深さを持つ表現なのです。

書道は「速度」の芸術

書かれた文字には、「深さ」のほかに「速度」が定着されています。

流麗りゅうれいな」「流暢りゅうちょうな」とか「流れるような」というのは、そこに速度がみられるからです。

時間が流れることで文字が作られていきます。その過程が紙の上に定着していくのだから、深さのほかに書きぶりには速度が定着されており、ていねいになぞってみれば書いているときの速度がよみがえってきます。

書かれた文字から感じ取れる速度が、実際に運筆した速度と必ずしも同じであるとは限りませんが、文字は一定の筆順、法則があるため、この速度で書かれたはずだという速度はわかります。つまり、表現された速度は文字に定着されているのです。

毛筆に限らず、ボールペンや鉛筆でも、書いたときの速度を読みとることができます。その理由は、速い速度で書かれた点画は直線的なすっきりした直線になり、カーブする部分もすっきりした放物線を描き、その逆にゆっくり書いた場合には、点画の線が揺れ、線の輪郭が鈍くなるからです。

書道の線と絵画の線は別物

文字の点画を「線」と表現した場合、絵画における「描線」とは区別する必要があります。

西欧絵画の理論から書道を説明しようとしていることがありますが、混同してしまうと書道とはなにかが曖昧になってしまいます。

作者が力を加えることによって穂先は紙に触れ、紙から反発する力に抵抗しつつ文字を書いていきます。穂先と紙との間の接触と抵抗と摩擦と離脱によって文字は作られていきます。

そのため書道は「線の美」というよりも、「書きぶりの美」ととらえるべきなのです。

「深さ」と「速度」によって表現される作者の想い

書道は点画や文字を書くことを通して表現された「深さ」と「速度」が合わさることによって、作者の想いが表現されます。

歴史上、有名な中国の書道家たちは、みんな政治的に反勢力に立ち向かう知識人たちです。その方々の筆跡は、言葉によって世間とわたり合う姿を表現する、という書道の本質に根ざしています。

中国の書字活動を中心的にになったのは、六朝りくちょう時代には貴族の士大夫したいふとう時代は政権の中枢、またそう時代以降は知識人である士大夫したいふ士人しじん文人ぶんじんでした。

権威と権力をで象徴させるなら、官位を得て、政治で戦う士人は手に剣を持ちます。政治が思うようにいかず、政治の舞台から退いたとき、彼らは剣をに持ちかえて闘います。筆で理想の人間と人間社会をめざすのが、文人であり、俗世間から離れて暮らす隠逸いんいつです。

中国の筆跡は、政治と政治的挫折に悩み、その政治的勢力に抵抗する力・志が表現されています。

筆を自分自身、紙を他人または世間ととらえれば、筆と紙とが触れ合う「書きぶり」は、自分と他人との総合的関係の比喩であるとみなすことができます。その表現は筆を強く押さえつけるとか、強い線というような野放的な表現ではなく、言葉をつむぎだしている渦中の表現です。言葉で他人や世間に立ち向かっている作者の姿が筆跡に定着しています。

以上の作者の想いを表現することが、書道の美といわれるものの本当の姿です。書道というのは、単に文字を書く技術でも、書かれた文字の造形美でもありません。「うまい」「へた」もありません。もし書道が書かれた文字の造形美なのだとしたら、バランスよく書かれた習字のお手本も、1つの作品として成り立つことになります。

現代のわたしたちに置き換えて考えてみると、自分の意見をもたずに世間に流されるのは、政治にかぎらず反勢力に立ち向かっているとはいえません。自分で学んだり、人の意見を聞きに行ったりすれば、世の中のあらゆる問題に対して「こうあるべきなのではないか」と自分の意見をもてるようになります。その思いを文章に表現することが、書道の本質なのです。

まとめ

今回は、外国から入ってきた西欧思想・美術思想に影響されていない場合の書道の価値観を紹介してきました。

書道とはどのような芸術なのか、意見はさまざまで、今回紹介したのは1つの意見にすぎません。
このことをきっかけに書道とはどのような芸術か、自分なりに考えてみはいかがでしょうか?

本記事をまとめると、書道の作品をみるということは「書きぶり」をみているということです。

点画の書きぶりは、筆の先端と紙との関係に生じます。書きぶりとは、作者から筆の先端に加えられる力と、筆先から逆に伝えられる紙からの反発と、その痕跡をみて微調整し、制御していくことです。

そして、その「書きぶり」は「深さ」と「速度」が合わさって表現された、作者の「想い」です。

書道の活動は、中国の政治制度の下で、政治的、社会的、人間関係的にあらがう文人だちの表現として育まれ、東アジアの芸術の中心として位置してきました。

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