顔勤礼碑は、中国の唐時代に活躍した書道家、顔真卿が書いた楷書の作品です。
本記事では、作者である顔真卿について、その作品顔勤礼碑について、特徴・書き方も紹介します。
著者・顔真卿について
顔真卿〈景龍3年(709)~貞元元年(785)〉、字は清臣、開元22年(734)進士に及第しました。
書道に優れた人物で、初唐の三大家(欧陽詢・虞世南・褚遂良)に顔真卿を加えて「唐の四大家」といわれます。
新しい書風を提唱し、書聖・王羲之とともに歴代の能書家の中の双璧とされています。
顔真卿について詳しくは下の記事で紹介しています。↓
顔勤礼碑について
顔勤礼碑は、顔真卿が曾祖父・顔勤礼のために陝西省長安郊外の萬年県寧安郷鳳栖原にあるその墓側に建てた神道碑で、撰文・書丹ともに顔真卿自身によるものです。
銘文がないため建碑の年代は確定できませんが、碑文によれば顔氏家廟碑(建中元年・780)より少しさかのぼる大暦14年(779)ごろ、顔真卿が71歳前後であると考えられています。
顔勤礼という人物について
顔勤礼(字は敬)は唐時代初期における著名な学者・顔師古の弟で、李世民(のちの唐太宗)にしたがって長安に入り、朝散正議大夫を授けられ、秘書省校書郎となりました。のち崇賢館学士となり、秘書省著作郎にいたりました。
高宗の王皇后の一族の娘をめとり、これが昇進の糸口となるはずでしたが、永徽6年(655)王皇后が寵愛を失い廃されると、そのまきぞえをおい左遷され、やがて顕慶6年(661)上護軍を加え、官舎に率しています。
顔勤礼碑の構成
顔勤礼碑は、発見時から石が2つに割れていたので、毎行1・2文字欠けています。文は4面に環刻されており、碑陽は19行で毎行38字、碑陰は20行で毎行38字、左側面は5行で毎行37字、右側は銘文が刻されていたようですが、すでに切り取られていました。『金石録』跋によれば、この部分は北宋の元祐年間にはもうなくなっていたらしく、したがって現在、およそ1600余り字が数えられます。
碑陰の文字は4㎝平方の大きさで縦18㎝、横89㎝のところに700文字以上がびっしりと書かれています。行間、字間はほとんどありません。
顔勤礼碑の特徴
44歳に書かれた多宝塔碑と顔勤礼碑を比較してみると、多宝塔碑の方は肉太で力を入れた整斉な書風ですが、顔勤礼碑の方は縦画と横画の調子が軽妙であるため、スケールが大きく見え、かなり変化に富んだ印象を受けます。
文字が四角のマスにおさまるように構築されていて、手足や頭が出ていません。それでも横画を鋭く細めに、縦画を丸く太めに書き、文字自体のなかに空気がたくさん吸収されているため、全体的に明るい印象をもちます。
これは向勢にまとめられているからで、これこそ顔真卿の大きな特徴です。
顔勤礼碑の書き方
次に、顔勤礼碑の書き方を紹介します。
横画の書き方
横画の起筆には2通りの方法がみられます。
「士」の1画目のように穂先をしっかりみせて鋭いものと、「童」のようにまず穂先を進行方向と逆におろし、起筆をまるくしているものがあります。
筆の入れ方によって線が穏やかになったり、厳しくなったりするので、よく見てください。
運筆は、筆を入れてから一旦浮かし、最後までねばりのある線でのびやかさをもあらわして運んでいます。
終筆は筆管を右下へねじるようにして柔らかな丸さを表現しています。
縦画の書き方
顔勤礼碑の縦画は向勢で書かれています。
「仁」「同」のように起筆を緩やかにして、そのままの太さで運筆されています。ねばりと厚さが表現されていて、ゆっくりとした慎重な筆遣いが伝わってきます。
また「中」のように下から筆を突き上げて穂先を丸めこんでから引きおとしたものもあります。
この場合、筆を抜くところまでけっして気力をゆるめていません。つまり、先端に精神が宿るように運んでいます。この筆法を懸針と呼んでいます。
九成宮や雁塔聖教序では針のようですが、顔勤礼碑では太くくいのようです。
また、縦画が2本3本とならぶ文字でも、向勢の特徴を乱さないようないろいろな工夫がみられます。
線の太さも変化しているので注意してみてください。
左はらいの書き方
左はらいにもさまざまな変化がみられます。
①「軍」の2画目は強い打ち込みのあと細く鋭くなっています。
短い左はらいは、起筆でしっかり押さえこんで反動をつけるような気持ちでで腰をあげ、左下へはねます。
②「後」では1画目と2画目とは筆の運びが違っています。
やや短い「後」の2画目のようなはらいでは、先端まで鋭さを含みながらも表面には暖かさと柔らかさが加わっていいます。
また、③「大」と④「君」の左ハライを比較してみると、進路の方向によって起筆や太さまでも違い、表情がかなり異なっています。
右はらいの書き方
右はらいは、太らせながら最後に一旦止まり、再度逆もどりをして右へはねだします。太くゆったりとした様子は、横画の細さを比較すればわかりやすいでしょう。
顔真卿の書は左はらいにくらべて右はらいにかなりのウエイトをおいています。それが顔真卿の特徴の1つでもあります。
折れの書き方
折れは、横画から縦画への接点をやや細めにし、下へ引き下ろすにしたがって力が加わり、曲線を描きながら終筆までもってきています。中には線の内側は直線に近く、外側のみが曲線で肉太になっているものもあります。
「加」のように、まず横画を引き、曲がり角で一旦筆を離し、再度縦画を書くものもあります。
ハネの書き方
縦画からのハネは、上からおりてきた筆を一旦止めて少し上へもどし、再度左下へおろして左上方へ力をあふれださせます。
九成宮醴泉銘の「事」では右へ向かって三角形を作るように押しますが、顔真卿の書ではジャンプするような動きがみられます。
「尤」「兄」などの乙脚部分では、すぐにはねるのではなく、進んできた方向へ逆もどりするように筆をはじきだします。
顔勤礼碑の上達には道具も大切
ここまで顔勤礼碑の書き方を紹介してきましたが、これらの技法や筆づかいを表現するためには、適切な道具が不可欠です。
特に筆の選び方は非常に重要です。適切な筆を使わないと、上達しないばかりか、間違った方法を覚えてしまうこともあります。
もし、「お手本通りにうまく書けない…」や「筆が思うように動かない…」と感じる方は、普段使っている筆を見直してみると良いかもしれません。
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まとめ
ここまで顔勤礼碑について解説、特徴・書き方も紹介しました。
自分の作品の中に重厚さをもたせたい。線が細いので、太い線のどっしりとした作品を創りたい。
あるいは、自分の字は線と線の余白が狭く見えるので、ふところの大きなものにしたい。
このように考えている方は、顔勤礼碑をはじめとする顔真卿の楷書を学べば、きっと自身の書風改善の大きな助けとなるでしょう。